インドの2001年の国勢調査


          アジア・ディスアビリティ・インスティテート 
                   中西由起子


 インドでの最新の障害者数は、1991年に全国抽出調査団体(National Sample Survey Organisation)が行った調査に基づいた以下のような予測の数字である。これは人口の5ー6%とされている。
農村 都市部 合計
男性
(1)
女性 (2)  合計 (3) 男性 (4)    女性 (5)  合計 (6)
視覚
%
1,539 (46.15) 1,796 (53.85) 3,335
(83.27)
0.308 (45.97) 0.362
(54.03)
0.670
(16.73)
4,005
聴覚
%
1,409 (54.76) 1,164
(45.24)
2,573
(79.36)
0.339 (50.67) 0.330
(49.33)
0.669
(20.64)
3,242
言語
%
0,942 (62.84) 0,557
(37.16)
1,449
(76,25)
0.298 (63.81) 0.169 (36.19) 0.467
(23.76)
1,966
聴覚・言語
%
2,009 (57.42) 1,490 (42.58) 3,499
(78.07)
0.557 (56.66) 0.426
(43.34)
0.983
(21.93)
4,482
移動
%
4,396 (64.58) 2,411
(35.42)
6,807
(76.15)
1.370 (64.26) 0.762
(35.74)
2.132
(23.85)
8,939
身体(少なくとも、上記のうち一つ)% 7,442 (58.82) 5,210 (41.18) 12,652
(78.32)
2.078 (59.34) 1.424 (40.66) 3.502
(21.68)
16,154
注 カッコ内はパーセントであり、(1)と(2)の欄、(3)と(6)の欄、(4)と(5)の欄のパーセントは合計が100になる。
  聴覚、言語、言語・聴覚での数字は5才以下の年齢層は除いたものである。

 10年に一度行われるインドの国勢調査に、障害者団体の強力な運動が身を結んで次回やっと障害が調査項目と含められることになった。最初の国勢調査は1872年に行われた。その時の調査票には身体障害のみでなく知的障害に関する質問も含まれていた。1931年には同様の試みは実施されなかた。1941, 1951, 1961 and 1971年でも同様であった。独立後一度だけ障害に関する情報も集められたことがあり、それが1981年の国勢調査であった。というのはその年が国際障害者年にあたったからであった。1981年の人口調査では視覚障害(blind)、言語聴覚障害(dumb)、肢体不自由(cripple)の絶対的障害3つのカテゴリーだけが対象であった。1991年にはまったく障害は除外されていた。
 その次の調査は2001年2月に行われることになっていた。実際、第9次5ケ年計画(1997−2002)で 計画委員会(Planning Commission)は「・・・障害者の福祉と開発計画をもっと意義あるよう保証するためには、登録長官・人口調査コミッショナー事務所 (the office of the Registrar General and Census Commissioner) がいろいろな種類の障害を持つ人々の人口の大きさに関するデータを集めた1981年の人口調査での実践を復活し、次回2001年の人口調査でそれを利用可能にさせることが緊急に必要である」と断固として述べていた。
 しかしながら、これはそれほど容易には実行されなかった。1999年10月に、新聞報道から国勢調査の準備状況を知った障害者雇用推進全国センター(National Centre for the Promotion of Employment for Disabled People, NCPEDP)事務局長のジャビッド・アビディ(インドDPIの事務局長でもある)が障害が含まれているか否かの質問状を家庭問題省(Ministry of Home Affairs)登録長官(Registrar General)に送った。12月の初めの世界障害者の日 (World Disability Day) に、障害者権利グループ (Disabled Rights Group、DRG) のメンバーはショックを受けて無言で人口調査委員会からの返信を読んだ。 手紙は委員会が障害が2001年人口調査に含められないと「喜んで」通知すると簡単に述べられていた。その年の暮れに彼らは抗議行動を開始した。まず、問題の必要性と重要性を説明するNCPEDPと人口調査コミッショナーの間で、DRGと大統領、首相、野党党首、家庭大臣などの間で、人口調査委員会の決定に抗議することを強く訴えるDRG全員かと同分野での同僚全員、つまりNGO、障害者、障害グループなどとの間で、手紙の行き来が始まった。また、視覚や聴覚の障害当事者団体などの合同での抗議文の送付、障害者権利グループ(Disabled Rights Group)による抗議集会、全国各地での政府の建物前での座り込みなどが相次いで行われた。彼らは1995年に障害者(均等機会、権利保護、完全参加)法を成立させて以来、障害者は重要な社会の一部門と見なされてきたとの自負があった。 彼らは、統計から障害が抜け落ちていることを無視できなかったのである。
 偶然にも翌年2000年2 月7-11日にニューデリーで、国連アジア太平洋統計研究所(UN Statistical Institute for Asia & Pacific)と共同で統計・プログラム実施省(Ministry of Statistics & Programme Implementation)が国際ワークショップを開催することになっていた。 北インド脳性マヒ協会 (Spastics Society of Northern India) 事務局長Vandana Bedi女史は Shri Arun Shourieと連絡を取って、そして数人が招待されるようにした。ワークショップは2000年2月6−11日に開かれた。 ワークショップに出席して非常多くを学んだ。 データ収集の種々の方法が論じられ、それらの長所、短所が詳しく述べられ、結果は非常に明確であった。 障害が今度の人口調査に含められなくてはならないという彼らの信念はさらに強くなった。
 2月18日にShri K.V. Imiraya(統計・プログラム実施省次官)を議長として、国勢調査コミッショナーとの会見が行われた。Dr. N.S. Shastri (DG & CEO, NSSO)、Shri J.K. Banthia(登録長官、国勢調査コミッショナー)、Mr. Javed Abidi(NCPEDP事務局長)、Ms. Vandana Bedi(SSNI事務局長)、Dr. Madhumita Puri(Society for Child Development )、Shri Rakesh Arora(Project Director, District Rehabilitation Centre)が出席した。しかしながら「難しい、不可能である」という従来からの見解を得ただけであった。その理由は
1. 1981年の国勢調査は正確な推定障害者数を出せず不成功であった。 国勢調査委員会(Census Commission )はこの失敗の責任をとり、以降このような方法を継続しないこととした。
2. データ処理の際に、障害の種類等に関する調査対象者の情報を抽出することは難しい。
3. 障害者は自分の障害を隠すか、彼らの家族が情報を提供しないだろう。
 障害者グループは以下のように反論した。
1. 1981年の調査では主要な障害である知的と聴覚障害や、「完全な障害者」という枠組みをもうけて軽度な障害や部分的障害を除外したので不正確であるとは認めるものの、その経験をデータ収集の改善に活かすことなく最も簡単かつ早急な方法を選んでしまったことを抗議する。
2. 記入員の仕事は調査することではなく、ただ誠実に人々が言わなねばならないことを記録することであった。 それ故、記入員には特別な訓練が必要とされなかった。 そして、いずれにしても、社会正義エンパワメント省は責任をもって記入員の訓練と意識変革をすると保証している。
 確かなことは何も実現しなかったので、さらに抗議行動は強化され、メディアが積極的に利用された。 世論が作られていった。 圧力が強められていった。2000年3月7日に実施された民衆大集会では、1000人以上の人々がニューデリー中心部のJantar Mantarに集った。 驚くことに反応はよく、マスコミの報道もさらに良くなった。さらに5週間が経った。 何も起きず、時間が経過していった。 抗議活動のさらなる強化が決定された。4月20日に一日がかりで人口調査委員会事務所の封印(Dharna)を予定していた。
 しかしその直前の4月18日に家庭大臣官房から、家庭大臣Shri L.K. Advani自身を議長としてこの問題を論じるために会議が召集されたという知らせを電話で受けた。Shri Arun Shourie(Programme & Implementation大臣)、Smt. Maneka Gandhi (Social Justice大臣)、国勢調査コミッショナー とShri Javed Abidi, (Disabled Rights Group 創始者)、Ms. Vandana Bedi(Gen. Ian Cordozo)Dr. Madhumita Puri(障害分野代表)が出席した。一時間の会議では、国勢調査コミッショナーは最後まで今回含めないとの立場をとったが、列席した大臣たちが態度を変えた。会議後さらに問題点を討議するために非公式な委員会が作られることになった。委員にはShri Arun Shourie, Smt. Maneka Gandhiの他に、Shri Javed Abidi、Ms Vandana Bedi, Ger lan Cordozo, Dr. Madhumita Puri and Smt. Merry Barua. の障害分野のNGO 代表者が入った。毎週Shri Arun Shourie'の事務室に集い勧告を作成し、家庭大臣の承認を受けるために提出された。
 6月11日に政府は2001年の調査に障害を含めると正式に発表した。10月3日に障害者雇用推進全国センター(National Centre for the Promotion of Employment for Disabled People)がアショカ民衆のための革新者 (Ashoka Innovators for the Public) と北インドマヒ者協会(Spastic Society of Northern India ) と共同でニューデリーで開催した北部地域ワークショップでは、全国人口調査委員が今度の人口調査で障害の取扱いについて発表した。
 調査票の15番目の質問は市民の障害状況に関する情報にあてられている。 そして初めて、視覚、聴覚、言語、移動と精神の5障害が調査されるのはとなった。 5障害の各々がその特定の障害を持つ人々の最大の数を含むように以下のように非常に広義に定義づけられようとしている。
視覚障害 ー 片目に視力がある、または眼鏡をかけてもはっきりと見えない、眼鏡の使用に関してアドバイスされる機会のなかった人さえも、全盲の人のように視覚障害として扱われる
言語障害 ー 標準的な理解力をもつ聞き手に話を理解してもらえない人々は言語障害者として完全な唖として勘定される。しかし、どもるにもかかわらず理解されることができる人たちは言語障害者であるとして扱われない。
聴覚障害 ー  大きい音だけを聞けるか、または片耳でだけ聞くことができる人たちは、全く聞こえない人々と同様に、聴覚障害と見なされる。 しかし補聴器で聞くことが可能な人たちは障害者と見なされない。
身体障害 ー 手足が欠損しているか、通常それらを使うことができない人々、身体の奇形によって小さな物を持ち上げることができなかったり、関節炎のために他人の援助あるいは他の手助け無しで動いたり移動中片足を引きずる人たちはすべて運動障害者である。 指または足指や親指のような「手足の一部」の欠損は、全指または足指、親指の欠損が人を移動障害にするであろうけれども、障害と見なされない。
精神障害 ー 年令に相応しい理解力に欠けている人々、精神病や知能障害の人々、日常の決まった仕事をするのに家族に依存している人々は精神障害と見なされる。もちろん、年齢に相応しい学習を理解できず受験の資格を得られない人たちは含められない。
 人の障害は調査の日付時点で決められる。 人が1つ以上の障害をもつ場合、ただ1つの問題だけが記録される。 記入員に障害のどれを公表するかの決定は回答者に任せられる。 傷害のため動けないなど、調査日に一時的な障害をもつ人々は障害者とみなされない。 問題の微妙な性質から判断して、記入員は回答者の感情を害さないようにデリケートに厳密に検査するよう助言を受けた。 彼らは、障害の数とタイプについての情報が政府の障害者福祉計画のためになると強調して、質問の実際の目的を説明するよう指示された。

(記入票の一部)

 1995年障害者法ででいう障害者とは、医者によって診断された全網、弱視、ハンセン病回復者、聴覚障害、運動障害、精神薄弱、精神病により40%以上の機能障害(損失)をもつ人と定義される。しかし調査ではそのようなの詳細な定義は使われていない。 すでに手順に関する3回連続の訓練が開催され、2百万以上の調査者が受講した。
 人口調査委員は、人口調査は障害の調査と異なるものであることを強調して、調査のプロセスを容易にするために故意に単純でわかりやすく定義を採用したと述べていた。 広大で識字率も高くないインドでは、少々の妥協は仕方のないことであり、たとえ障害の定義に問題があってもむしろ調査が実施されたことを前進ととらえた方がよいと思われる。

参考文献
Abidi, Javed. emails regarding the census dated on 20th January 2000, 17 Apr 2000, and 22 Apr 2000
National Centre for Promotion of Employment for Disabled People. "India: Disability Advocates Win the Right to be Counted", DisabilityWorld, January/February 2001, www.disabilityworld.org/01-02_01/news/census.htm
Puri, Nadhumita. and Chari, Rama. "Disability To Be Included in Census 2001!", Equity, Vol.3, Issue 4, January, 2001, pp.1-5, National Centre for Promotion of Employment for Disabled People, India
Subramaniam, Garimella. "All disabilities to be covered in Census 2001", The Hindu, Online edition, 6/10/2000, (www.indiaserver.com/thehindu/2000/10/06/stories/0206000w.htm)
中西由起子、アジアの障害者、現代書館、1996
中西由起子、山内信重共訳。「インド1995年障害者(機会均等、権利保護と完全参加)法」、季刊福祉労働、73号、1996年12月

(2001年4月24日)