ベトナム・ハノイにおける身体障害者のソーシャルキャピタルと生活満足度に関する研究

東京大学大学院医学系研究科国際地域保健学教室
高橋 競

2009年3月 修論要旨


背景
 ソーシャルキャピタルは健康に影響する要因のひとつであり、関連研究も近年急速に蓄積されている。しかしこれまで、社会的に孤立しがちな身体障害者に関心が向けられることは少なかった。本研究は、ベトナムの首都ハノイにおいて、身体障害者の生活満足度へのソーシャルキャピタルの影響を調査することを目的とした。

方法
 本横断研究は2008年6月から7月に実施され、136名の参加協力が得られた。参加基準は、ひとつ以上の身体障害があること、ハノイの障害者団体に所属していること、18歳以上であることとした。視覚障害など他の障害があるものは除外した。ソーシャルキャピタル測定のため、Short version of Adapted Social Capital Assessment Tool (SASCAT) が用いられた。生活満足度測定のため、The Satisfaction With Life Scale (SWLS) が用いられた。また、社会経済因子や障害関連因子も交絡因子として測定された。統計解析では、二変量解析で生活満足度へ影響を及ぼす可能性のある変数を特定し、その後、重回帰分析により交絡因子の調整がなされた。

結果
 二変量解析において、生活満足度との間に有意な関連が認められた変数は、ソーシャルキャピタル構成要素である@グループメンバーシップ(p < .001)、Aグループからのサポート(p = .048)、B帰属感(p = .017)、障害関連因子としてC日常生活動作(p = .013)、D屋内移動状況(p = .015)、社会経済因子としてE教育レベル(p = .009)であった。重回帰分析による交絡因子調整後においても、グループメンバーシップ(Beta = .26, t = 2.01, p = .041)は生活満足度と有意に関連することが確認された。

まとめ
 本研究により、ソーシャルキャピタル構成要素のひとつであるグループメンバーシップが、身体障害者の生活満足度に大きな影響を及ぼし得ることが明らかになった。具体的には、ふたつ以上のグループにおいて積極的に活動するメンバーとなることが、生活満足度を高めるためには重要であることが示唆された。地域におけるあらゆる種類のグループが、障害者にとってアクセス可能なものにならなければならない。