タイにおけるコミュニティ・ベースド・リハビリテーションのニーズに関する調査


国際協力ニーズ調査研究報告書 ー平成10年度ー 
国立身体障害者リハビリテーションセンター(WHO指定研究協力機関)平成11年3月

研究者 Som-arch Wongkhomthong
   Chongkolnee Chutimatavin
日本語要約作成 渡邊 雅行


氈D緒言
 タイは他の東南アジア諸国と同様に、農業社会から新興工業国への過渡期にあるが、そ
の変遷に伴ない、多くの問題に直面することが想像に難くない。例えば、交通事故やその他の災害、あるいは産業病による様々な障害がある。また、先天性奇形や感染および非感染性の病気、精神疾患、慢性アルコール依存、薬物中毒、栄養不良、さらには環境要因が
障害の原因となる。
 先行調査では、タイにおける様々な障害に関する問題の重要さとその関連組織について明らかにしている。今回の調査では、タイにおけるコミュニティ・ベースド・リハビリテーション( community‐based rehabilitation, 以下CBRと略す)の現状とニードについて綿密な調査を実施したので報告する。

.調査方法
 今回の調査は、1998年6月29日より8月3日まで、以下の手法を用いて実施した。
1.文献調査:タイ語および英語の資料、出版された文献および関係機関の内部資料(英文報告書巻末資料1−参考文献一覧)
2.施設訪問:事業の見学と情報収集(英文報告書巻末資料2−訪問先施設一覧)
3.個人面接:リハビリテーションに直接関わる24人への非構成質問(英文報告書巻末資料3− 被面接者一覧)

。.CBR関連基礎統計
1.人口・保健指標及び死亡・疾病構造の概要
 タイの人口は、1998年1月の調査で6,076万人で、その約68.5%が地方に住んでいる(英文報告書、表1)。また、1994年時点で出生率は人口千対16.3、粗死亡率は人口千対5.2である(英文報告書、表2)。同年の上位5位までの死因は、1)循環器疾患、2)事故、3)悪性新生物、4)呼吸器疾患、5)感染症および寄生虫疾患である(英文報告書、表3)。

2.保健医療システムの管轄組織
 保健省(Ministry of Public Health)では、大臣官房(Office of The Permanent Secretary)の下の県立病院課(Provincial Hospital Division)と地方保健課(Rural Health Division)および医療サービス局(Department of Medical Services)が管轄しており、他の主要な組織としては大学病院を下部組織にもつ文部省(Ministry of University Affairs)とバンコック市庁の医療部(Department of Medical Services)がある。
これらの組織の中には、考え方や行動計画を異にしていても、障害者を含む国民に奉仕するという明確な目標を共通して持っている。しかしながら、これらの組織は政策レベルでは良い連携がとられてはいるが、実施レベルでの効率を上げるためにより緊密な協力を必要としている。

3.保健政策及び計画
 第8次国家開発計画(1997‐2001)では、保健医療において4つの主要な政策を掲げている。以下にその概略を記す。
1)人的資源の開発:各行政レベルにおける保健分野の人的資源を開発する。
2)公正:国民保健サービスの公正を遵守する。
3)医療システム改革:病院と地域を連携する「家庭医」の導入など医療システムの改革を図る。
4)健康保険:公的システムとして機能するように健康保険制度を国民に推奨する。

4.障害者の実態
 1995年の国立統計機関の調査では、障害者の総数は1,024,120人で、総人口の1.7%である。また、国立保健基金では4,825,682人、総人口の8.08%と報告している。しかし、リハビリテーション法に実際に登録している障害者数は、117,728人に過ぎない。
障害発生の原因について、1994年のWasana Tapaopongの調査(サンプル数60)では、病気によるものが63.40%,事故によるものが18.30%と報告している。
また、1996年の国立統計機関の調査(英文報告書p13,表9)では、障害の総数175万のうち、切断12.3万、麻痺12.4万、四肢障害17.3万、視覚障害11.8万、聴覚障害及び発声機能の喪失22.3万、精神疾患6.2万、精神発達遅滞16万である。その原因別では、先天性によるものが35.9万、事故が26.4万、病気が16.4万となっている。

5.リハビリテーション関連の行政区分
 障害者の問題を解決するためには、異なった分野からの様々な資源の集積が必要とされる。現時点では、障害者のための包括的なリハビリテーションサービス、つまり医学的、教育的、職業的、社会的リハビリテーションのすべてを提供している組織はひとつもない。これを行うには多くの専門職と細分化された機能を備えるための巨額の投資が必要であるため、個々の組織が扱うには大きすぎる課題である。

6.リハビリテーション専門職
 タイにおけるリハビリテーション(医学的、教育的、職業的、社会的)の領域に従事している16の専門職を以下に列挙する。
1)医師(内科医、外科医)、2)看護婦、3)理学療法士、4)作業療法士、5)言語療法士、 6)ソーシャルワーカー、7)精神科医、8)心理療法士、9)栄養士、10)職業訓練指導員、11)手話通訳者、12) (聴覚障害の学生のための)筆記者、13) (聴覚障害の学生のための)教員、14)職業相談員、15)視能訓練士、16)視力測定士

7.CBRの中心機関
 タイでは、労働社会福祉省(Ministry of Labour and Social Welfare)の社会福祉局 (Department of Social Welfare)、保健省(Ministry of Health)の医療サービス局(Department of Medical Services)および文部省(Ministry of Education)の一般教育局(Department of General Education & Non-Formal Education)が、CBRの中心機関となっている。

「.CBRシステムの実態
1.障害者政策
1)人的側面
 タイでは、障害者に関する専門職、例えば手話通訳者、身体能力を評価する医師、理学療法士、職業相談員、ソーシャルワーカー、職業訓練指導員などが不足している。
2)物的側面
 バスの乗降など移動の際の不便、スロープの不備、障害者用の公的施設(公衆電話、公衆トイレ、ホール、スポーツ・レクリエーションセンター)未整備などの問題がある。また、障害者が用いる自助具や介護用品、教材の不足、補装具サービスの不備や職業訓練校の設備の老朽化なども挙げられる。
3)政策、制度側面
 現在、政府は1991年に障害者福祉リハビリテーションに関する六法を公布したが、それらは社会を構成する障害者と健常者の間の公正さを推進する政策から成っている。例えば、障害をもっていても国会議員になったり、公務員の職に就いたり、あるいは私企業に就労する権利が損なわれないことを謳っている。
 更には、障害者福祉リハビリテーション法の下に認定された障害者に対し、以下のリハビリテーションサービスを受ける権利が生じる。
@医学的リハビリテーション:診断、手術、理学療法、作業療法、言語療法、カウンセリング等。
A教育的リハビリテーション:一般教育、職業訓練。障害者のための特殊学校や一般学校における統合教育。
B職業的リハビリテーション:無料の職業相談、職業訓練、
C社会参加の権利保障:公的施設へのアクセス等。
D訴訟支援
 障害者に関する政策は、リハビリテーションを推進するために、都市部、地方に関わらず公的および民間組織が共同して、地域の資源を活用するCBRをその方針としている。リハビリテーション委員会が公的機関と民間組織を調整し、活動状況の調査やサービスモデル、情報システムの研究開発を進めている。この公的機関と民間組織の連携により、合同のセミナーが開催され、そこでは障害者のリハビリテーションのためのマスタープラン(1997‐2001)が起案され、第8次国家経済社会開発計画に取り入れられた。
4)障害者に対するサービス制度
 障害者の登録は、バンコックのリハビリテーション局または県の労働社会福祉事務所で受け付けており、障害の種類や程度が登録される(詳細は、英文報告書p20,28-29)。
 また、リハビリテーションサービスをより充実させていくための策定計画は、医学的、教育的、職業的、社会的リハビリテーションの分野のみにととまらず、マスメディア、宗教団体、障害者の自助団体等の活動も重要とされている(英文報告書p20-27)。
 フォローアップ体制に関しては、文書や電話にて関係機関に連絡され、より効果的なサービスのためにリファーラルされ、障害者の元にもニュースレターと共に直接文書が届けられる。

2.医学的リハビリテーションサービスの実態
 現在、CBRに関わっている各施設は幅広く活動しているが、依然としていくつかの問題を抱えている。
1)医学的リハビリテーションのサービスが不充分である。特に、すべての村落地域へは行き渡っていない。
2)地域住民には障害に関する知識が不足している。したがって、障害者に治療やリハビリテーションのサービスを受けさせることに関心がない。
3)リハビリテーションの専門的知識や技能を備えた職員が不足している。
4)患者のための施設間のサービス調整や移動が円滑に行われていない。

3.障害児の教育
 タイ政府と非営利団体は、多くの特殊教育プログラムを運営している。過去においてはその基金を特殊教育のための校舎や寄宿生の食費として拠出したことがある。多くの場合、教育プログラムよりも地域の学校整備のために用いられている。
 Poolpit Amattayakulの調査によると、政府が特殊教育を支援した学校は、1992年から1996年までの間に、聴覚障害、視覚障害、精神発達遅滞、肢体不自由などの障害児などのために27校ある(英文報告書、表11)。
 正当な統合教育は、1957年にバンコックで学習障害児に始まり、最近の10年では質の高い統合教育となってきている。タイ東北部のキリスト教盲人財団は、視覚障害者ための優れた統合プログラムを開発している。また、聴覚障害児のための統合教育プログラムもバンコックで始っている。肢体不自由児の学校は、バンコックにはないが、その外にはSri Sangwanと呼ばれる寄宿制の学校が9年次までの教育を行っており、そこでは車椅子も比較的よく利用できる。
 脳損傷や自閉の児童は、障害が重度であると統合教育は非常に困難であるが、Kasetsart 大学の教育学部が運営している学校は、自閉症児のための優れたプログラ ムを持っている。
 教員の養成に関してはバンコックのSrinakarin Wirote Prasanmitraが唯一、特殊教育の修士課程を有している。また、Mahidol大学では、言語病理学や言語療法のプログラムを行っており、1996年にリハビリテーションの分野の修士課程を始めた。
 また、教員養成大学53校のうち、6校において特殊教育の学士学位が取得でき、その他にもバンコックの大学では、特殊教育の長期および短期のプログラムが受けられる。

4.障害者の就業状況と職業訓練
 公的あるいは民間組織が職業訓練校を運営しているが、障害者は無料で受けられる。文部省や労働社会福祉省の学校では、健常者とともに扇風機やラジオ、テレビの修理、洋裁、美容、広告デザイン、写真、コンピュータ等について学ぶことができる。
 障害者の就労に関して、社会福祉省はその省令で、200人以上の企業に対し最低1人の障害者の雇用を求めている。それが達成できない場合にはリハビリテーション基金への拠出を求めている。また、雇用した場合には税が優遇される。しかし、実際には、障害者を雇用したり、基金への拠出をしている企業は半数にも満たない。
 また、職業訓練後の就労に関しても、職業訓練の内容に則した職業に過半数が就労できなかったり、あるいは就労していても報酬を得ている障害者の大部分が最低賃金以下であったり、障害者用の環境整備が進んでいないなどの問題を抱えている。職場環境の整備に関しては、1998年3月10日に新たに法が発効し、その効果が期待される。

5.補装具の支給実態
 タイでは、リハビリテーション法により予算の状況は改善したが、材料の多くを米国、英国、ドイツに頼っており、また技術的にも義肢装具士の養成が遅れている。Sirindthron Centre が県立病院に義肢を備給する役割を担っている。また、義足基金とKing Mongkut 技術研究所は共同で人工膝継ぎ手の研究に着手している。

」.CBRシステムのニーズ
 障害者のリハビリテーションは、病院や学校などの入所施設において行われるものだと従来は理解されていたが、現在では、生活する能力のある障害者は治療場面に留まる必要はなく家族と共に生活すべきだと考えられるようになった。CBRの概念は受け入れられ、必要なものとして思われている。CBRは、障害の種類や地域の実状に適うようにその地域で障害者を支援する住民と協力し、さまざまな地域資源を活用するので、 障害者は住み慣れた地域で自立して生活を送ることができる。
 タイでは、1994年に福祉局(Public Welfare Department)が試験的に10ヶ所の県においてCBRを導入したが、Kanchanaburi県の教育的リハビリテーションとChieng−Mai県の職業リハビリテーションの2ヶ所だけが成功した。なお、1999年に新たに5ヶ所でCBRが行われる予定である。
 CBR活動は福祉局で行われる前に、保健省の医療サービス局(Medical Service Department)が障害者と共に活動する人々のためのリハビリテーションマニュアルの翻訳に着手していた。現在、医療サービス局では、日本の「自立生活ユニット」をタイで活用できるように改良を試行しているところである。

1.人材養成及び専門職
 リハビリテーション分野の専門課程は、Ratchasuda College に置かれている。CBRを研究することができるのは唯一このコースだけである。1999年に修士課程が始まることになっている。Ratchasuda CollegeはMahidol Universityの傘下にあり、Princess Sirindthomの後援を受けている。修士課程のプログラムを開始するに当って、オーストラリアと米国の専門家もその準備に加わることになっている。現在、Ratchasuda Collegeでは、特殊教育の技術、カウンセリング、研究、教材開発など教育およびモビリティ、適応技術、手話、点字などの指導法を教育している。

2.郡(district)レベルにおけるプライマリヘルスケアセンターの分布
 かつては村落で活動しているボランティアには、地域コミュニケーター(Village Health Communicator, VHC)と地域ボランティア(Village Health Volunteer, VHV)の2種類であったが、現在は地域ボランティア(VHV)に統一されている。
 地域ボランティアの数は、その地域の世帯密集度に基づくが、一般には、1人の地域ボランティアは15から20の世帯を担当している。地域ボランティアには報酬は与えられないが、本人と家族の医療費が無料とされたり、地域から尊敬の念をもたれたりする。
 地域ボランティアの役割を4項目にまとめると、
1) プライマリヘルスケアセンターを運営する。例えば、村人が病気に罹った時に簡単な治療を行ったり、何か問題を抱えた時に相談にのる。
2) 糖尿病や高血圧など病気の早期発見に努める。また、必要な情報を収集して調査を行う。
3) それぞれの地域住民に必要な保健情報(PHCの14要素)を伝える。
4) 就学前の子どもの体重測定を行い、栄養不良の子どもに補助食品を配給する。
 プライマリヘルスケアセンターは、中央の政策に従い、県の保健局(Provincial Health Office)の管轄下で国中に広がっている。また、Districtレベルおよびsub-districtレベルにおいても、前者は保健事務所(Health District Office)、後者は保健センター
(Health Center)がその地域のプライマリヘルスケアの責任を負っている。sub-districtレベルから村レベルにおいて、コミュニティ・プライマリヘルスケアセンターが設置されている。
 また、村レベルのリハビリテーション活動は、保健センターの職員がマニュアルに沿って、センター内だけではなく、家庭訪問も行い、役に立つ情報を障害者やその家族に伝えている。マニュアルは、4冊あり、視覚障害、聴覚障害、身体障害、知的障害のリハビリテーションについて書かれている。

3.経済的自立のための職業訓練
 Wasana Taphophong の調査によると、障害者は職業訓練に対して大多数が満足しているとの結果が出ている(英文報告書、表18‐22)。職業訓練から得られた知識に関する質問では、視覚障害者の80%、聴覚障害者の60%、身体障害者の45%が十分に知識
が得られたと回答している(英文報告書、表19)。
 職業訓練後の方向としては、視覚障害者では、自営が40%、企業等への就労が35%、進学が25%であり、視覚障害者では、自営45%、企業等への就労55%、身体障害者では、自営45%、就労50%、進学5%となっており、全体として自営は4割程度となっている(表21)。
 また、障害者リハビリテーション委員会(Office of the Committee on Rehabilitation for Disabled Persons)の会長Sompom Ampavasriri氏は、地域に暮らす障害者の現状について次のように話している。
1) 職業リハビリテーションを行なっているセンターの数は十分と言ってよい。例えば、障害者リハビリテーション委員会は、バンコックの外に7ヶ所センターを運営しているし、技術開発局(Department of Skills Development)は76県のそれぞれに健常者と共に障害者も職業訓練が受けられる技術開発センター(Center for Skills Development)を設置している。さらに10団体程度のNGOが障害者のための訓練を行っている。しかし、障害者の職業訓練には、いくつかの問題を抱えている。例えば、技術開発センターでは、9年間の教育課程を修了していないと登録できないし、 訓練を受けても最後まで終了するのは、約8割である(英文報告書、表23)。
2) 職業訓練に用いられている備品や道具が不充分で老朽化している。例えば、未だに白黒テレビを訓練に用いている。
3) 新しい技術に基づいた情報が得にくい。
4) 職業訓練指導員がかなり不足している。現場では、地域のラジオテレビ修理者が求められているが、1時間当たり80バーツという低い報酬では、なかなか、成り手を見つけることは困難である。

4.情報提供とそのためのネットワーク
 組織の多数、例えば、国立Sirindthron リハビリテーションセンター等の政府の組織であっても、情報を統合する良いネットワークを持っていない。現在のところは、おのおのの組織がその方針に従って情報収集している(英文報告書、p61)。

5.専門職の会議および研修
 1993年から現在まで、特殊教育、視覚障害者のための点字教育やモビリティ訓練の指導法、手話、などのセミナーが開催されている(英文報告書p61‐p64)。さらに、1995年に医学的リハビリテーションのセミナーとCBRの会議がそれぞれ開催されている。

6.CBRの現状
1) CBRは、医学的・教育的・社会的・職業的リハビリテーションを複数の部門の協力によって成り立つのあるが、現在のところ連携がうまくいっておらず、活動が重複しているように思われる。
2) 地域のリーダーや保健センターの職員に、まだ十分にCBRの理念や知識が浸透していない。
3) CBR実施状況は、概念や理念、および実施方法を普及させ、人々を動機づける第1段階を通過し、現在は第2段階としてレファーラルシステムの構築と進展を目標として継続している。
4) CBRは往々にしてレファーラルシステムが不充分であるが、これは地域病院のほとんどがリハビリテーションサービスを行っていないからである。

、.CBR事業に関する外国等からの援助
1.外国の組織による支援
 CBRを支援している海外の組織には次のようなものがあり、主に教育上の支援を行っている。
1) Christoffel Blindenmission (CBM)
2) Hilton Perkins International Program
3) Save the Children Foundation of the United Kingdom
4) Christian Outreach

2.身体障害者のための実施機関
 Handicap Internationalが以下の活動を行っている。
・義肢、装具、その他の歩行補助具を無料で提供。
・障害者へ主に移動に関するリハビリテーションサービス。
・地域住民、特に障害者に対し、入手が容易な材料を用いて義肢製作の訓練。

 その他にも次のような支援がある。
1) Christoffel Blindenmission (CBM)が、来年、専門家と設備を障害者リハビリテーション委員会に送り、支援することになっている。
2) 国際協力事業団(JICA)が、福祉局に専門家を派遣し職業訓練を支援する。また、Sirindhon国立リハビリテーションセンターにも障害者のための屋内運動場の予算をつけている。
3) フランスの国際障害者組織がSirindhon国立リハビリテーションセンターに義肢装具士を派遣し、義肢装具製作者の訓練を支援している。
4) WHOは、Sirindhon国立リハビリテーションセンターにCBRに関するセミナーや会議のための予算をつけている。

・.CBRモデルに対する可能性と限界
1.モデル4:タイのCBRモデル
 プライマリヘルスケアセンターの地域ボランティア(VHV)が情報や基本的な医療サービスを提供する役割を担っている。地域ボランティアは、障害を発見し、保健センターに報告する。保健センターは、収集した情報に基づいて、障害者、その家族と地域ボランティアを訓練する。

地域ボランティア
障害の早期発見と介入
報告

訓練
保健センター

訓練

障害者 家族


 このモデルに関して、CBRに関わっている様々な機関が合同で分析しているが、保健センターは、地域における有能な機関であり、CBR成功の基礎になると結論づけている。しかしながら、保健センターには医師の配置されていないなど人的な理由で限界があるという意見もある。これに対しては、障害者が適切な医学的リハビリテーションを受けられるようなレファーラルシステムの整備が必要である。保健センターで対応できない事例には、郡や県の病院に照会することができる。
 また、職業的リハビリテーションや教育的リハビリテーションに関しても、その地域の福祉事務所や教育機関との連携が欠かせない。
現在は、CBRセンターとして保健センターを活用するパイロットプロジェクトが、Phayao県、Chumphon県、Nakhon Phanom県で進行中であるが、それらは成功している。
 しかしながら、Udornthanee県Sri Boonroung郡の障害児のリハビリテーションプロジェクト評価を行ったPantyap Ramasoota医師は、保健センターは情報の伝達や医療が必要な障害者を病院に照会する役割を十分に果たしていないと指摘している。
 このことから、CBR成功の鍵は、十分な予算の裏付けのある明確な政策、特に保健センター職員や地域ボランティアの教育である。また、単にCBRモデルを構築することだけでなく、保健センターの効率、地域ボランティアの能力、地域社会の態勢にもCBRの成功が掛かっている。

ヲ.国立身体障害者リハビリテーションセンターに対する要望等
 今回の調査において、障害者がリハビリテーションの様々な側面において問題を抱えていることが明らかにされた。しかしながら、その中でも職業的リハビリテーションと医学的リハビリテーションの充足が緊急課題であり、以下に詳述する。
1.タイには、義肢装具の製作者はいるが、義肢装具士は不足している。このために、義肢や装具の質が向上しない。現在のところ、義肢装具分野の学校をつくることができない。良い義肢の材料は、海外からの輸入に頼らざるをえない。障害者を支援するには、義肢装具の学校が必要である。研究施設が設置されれば、タイのみならず、近隣諸国にも有益となる。
2.義肢装具製作者が海外で先進の技術を学ぶために奨学金が必要である。これによって、最新の知見や技術を獲得して、この分野の改善につながることが期待できる。
3.職業訓練は様々な問題を抱えているが、特に、テレビ、ラジオ、コンピュータを含む備品や道具の老朽化が大きな問題となっている。最新の設備が整えば、障害者がその技能を向上させ、より就労につながりやすくなる。
4.障害者のための職業指導員の技術や知識が十分でない。職業指導員の教育のために専門家のタイ派遣が求められる。

巻末資料1−参考文献一覧 (略)
巻末資料2−訪問先施設一覧 (略)
巻末資料3−被面接者一覧 (略)