東南アジアの盲人支援のための教育でのITネットワーク、ON-NET

アジア・ディスアビリティ・インスティテート 
                   中西由起子

1 初めに
 2000年1月26日に、「オーバーブルック・日本財団視覚障害者のための教育関連技術ネットワーク(Overbrook-Nippon Network on Technology for Blind andred Visually Impaired Persons、略称ON-NET)に関する勉強会が、支援を行う日本財団会議室で開催された。米フィラデルフィアのオーバーブルック盲学校での途上国の障害者受け入れプログラムは知られているが、東南アジア対象の視覚障害者の教育と雇用での機会の均等化を目的としているON-NETに関しての情報は少ない。これは、日本財団が米国のオーバーブルック盲学校に設置した基金の運用益を利用して東南アジア諸国で視覚障害者の為の情報技術関連のトレーニング・プログラムを実施し、彼らが情報技術を活用し、視覚障害者の就職、ひいては自立を推進することを主旨とするプログラムである。当日の講演をもとにON-NETの概要を紹介したい。

2ON-NETに関する勉強会
 
2-1 ON-NETの目的と意義 
   オーバーブルック盲学校ON-NET事業責任 ラリー・キャンベル(Larry Campbell)

 情報技術はなぜ盲人にとって重要か
−盲人にとって、1829年の点字の発明に次ぐ最も重要な開発
−情報にアクセスする際の障壁を克服
−新たな教育・雇用機会の創造の支援
ー非障害者と平等なアクセスを可能とする画期的ツール
 ON-NETの目的は
オーバーブルック盲学校に設置されている基金が未構築なものと、ITでの新しい発展をもとに、
−地域協力の育成
−教育機会の拡大
−雇用機会の改善
 地域アプローチの方法を採用した理由は
−既存の政治・経済協力体制の活用
−各国間の「友好的競争」精神の利用
−地域内の人的資源を最大限に活用
−利用可能な資金がもたらす効果の最大化
−個人の自信の助長と地域の自立の推進
 現在プログラムが実施されているのは、タイ、カンボジア、マレーシア、フィリピン、ベトナムである。今後、インドネシア、ラオス、ミャンマーでも予定されている。

2-2 国別の活動

 1997年から4カ国で実施されているが、そのうちカンボジアとタイからの事例発表があり、フィリピンに関しては資料が配布された。

2-2-1 カンボジア
   カンボジア盲人協会事務局長 ブン・マオ (Boun Mao)

 孤児であったので、働いて学校に通っていた。王立農業大学の学生の時には、オートバイ・タクシーの運転手として働いてもいた。当時はプノンペンの治安は悪く、バイク強盗に襲われ、バイクを盗んだ強盗にバッテリーの酸を顔に浴びせられた。ドイツや日本の医師の力で鼻は整形され、口も開くようになったが、視覚障害は残った。ショックから殺して欲しいと願った。メリノール・リハビリテーション・センターで歩行、英語、解剖学、生理学、日本式マッサージを習った。
 1999年にON-NETの訓練として、タイの盲人キリスト教財団(Christian Foundation for the Blind、タイ・キリスト教盲人財団の活動参照)で初めてコンピューターの使い方を習った。カンボジアに戻り、Larryの指導で盲人を訓練し、盲人団体結成も行った。国は戦争、地雷、事故、生まれつき、ビタミンの欠乏等を原因とする13200人の盲人がいたが、大半の人は何もせずに家にいた。Overbrookと日本財団の支援で事務所を準備し、2000年10月27日に第1回の総会を開催し、15州から集まった盲人によって理事が選ばれ、カンボジア盲人協会が発足した。私は理事会で任命され、初代の事務局長となった。
 現在は外国語研究院の一年生として、夜間のコースに通う大学生でもある。教育省が研究院の英語学科に要請し、院の初めての盲人学生となった。
 カンボジアの盲人にとっての優先ニーズは仕事、技能訓練、CBRである。また教育とアクセス・テクノロジー(インターネットとEメール)も必要としている。

2-2-2 タイ
   マヒドーン大学ラチャスダ校 ウィルマン・ニヨンフォル (Wirman Niyomphol)

 中学の時にオーバーブルック盲学校に留学し、その後修士号を取得し、5年前に帰国した。当時のマヒドン大学ラチャスダ校はいろいろなアイデアを持っていたが、資金もスタッフもなかった。
 ON−NETのプロジェクトのために関係団体に呼びかけ、それに応じた4団体と一緒にNational Steering Committeeを結成した。現在のメンバーは
・Thailand Association of the Blind(TAB)
・Foundation of Employment Promotion for the Blind(FEPB)
・Christian Foundation for the Blind(CFB)
・Ratchasuca College, Mahidol University
・National Electrics Computer and Technolgy Center
・Foundation for the Blind in Thailand(途中から参加)
委員会はニーズに基づいてON-NETにプロジェクトを提案し、定期的に会議を開いている。
 団体それぞれがON-NETによる活動を行った。FEPBは盲学生が大学でON-NETの援助でコンピューターの事務職の訓練ができるようにした。3年間のプログラムは3月に終了し、卒業する人たちは職探しを始めている。TABは、普通プロバイダーとは月1500バーツで契約するが、月300バーツで盲人がインターネットを廉価で使用できるようにした他、TABの地域事務所とのコミュニケーションを向上させた。
 CBFは盲人大学生のためのプロジェクトとして教科書の迅速な点訳を目指した他、
Regional Technology Trainingを実施した。カンボジア2人(ブン・マオを含む)、ラオス2人、ベトナム3人、ミャンマー1人、タイ2人の、計10人が参加した。ラチャスダでは点訳教科書が入手しやすくなるように、来年にはホーム頁にテキストを掲載し教師がダウンロードできるように、計画している。

2-2-3 フィリピン
(Samonte, Emir P. and Payo, Jasmine W. "Unlocking the Future for PWDs: Computers make it possible for Persons With Disabilities to compete in the job market, PC World Philinnies, Nov. 2000, pp.54-58)

 フィリピンでON-NETが支援しているは、Tony Llanesが1994年に設立したAdaptive Technology for the Rehabilitation, Integration and Empowerment of the Visually Impaired (ATRIEV) である。彼はその会長として視覚障害のフィリピン人にITを教え始めた。正式には1999年からON-NETの支援で、Systems Technology Institute(STI)のRecto Branchに場所を借りて、国内初の無料の総合的コンピューター・リタレシーの訓練が始まった。「視覚障害者オフィス・プロダクティビティ」と名づけられたコースの第1回は1999年10月から2000年3月までであった。場所をSTIのLerma支部に移し、2000年7月にはコースが再開された。高校卒業生と若い専門家が混じった10人が受講した。
 ATRIEVの在学期間は限られているので、応募者はタイプライターを学習している高校卒業生とされている。彼らは履歴、コンピューターを習いたい理由と訓練からどんなことが選られるかを説明した小論文の二つを提出し、タイプの試験と面接を受ける。コンピューターの知識があるか否かは問われない。コース修了者にはATRIEVと連携したSTIからと、ATRIEVのサインも入ったアメリカのON-NETからとの2つの修了書を受ける。
 社会から劣って見られる障害者にとってコンピューターは、そのような誤った概念を変えさせる手段となっている。聴覚障害者もコンピューターを学習している。College of Saint BenildeのSchool for Special Studiesでは、3年前に3年半の11学期からなる聴覚障害者教育の大学教育を聴覚障害の学生に提供している。聴覚障害者芸能、聴覚障害者美術、カウンセリング、聴覚障害者数学教育、聴覚障害者スポーツ、手話教育、生計研究、コンピューター学習の単位が取れるコースの他、聴覚障害者のための会計と簿記、手話学習プログラムがある。
 Manila Christian Computer Institute for the Deaf(MCCID)では1年半のITコースがあり、ワープロに加えスプレッドシート、データベース、HTMLプログラムも習う。アプリケーション・プログラマーやプログラマー助手、プログラム・アナリストになりたい聴覚障害者のためにはプログラミング技術を教えている。学校は、ホーム頁デザインやホーム頁ができるホーム頁デザイナーの養成も考えている。将来的な需要を考えて学校は、リナックスをカリキュラムに入れることも検討している。
 MCCIDでも、コンピューター・ハードウエアー技術コース応募者は基本的コンピューター操作、電子学、ソフトウエアーに通じていること、コンピューター・プログラミング技術コース応募者は5つのコンピューター言語に通じていることが求められている。問題は在学中よりむしろ会社に雇われてからの、コミュニケーションからくる。
 他のNGOもこの分野での支援を強化している。Resources for the Blind(RFB)は点字フレームやコンピューター点字用紙の提供や点字出版などを行ってきたが、JAWS(Job Access With Speech)と呼ばれるソフトをアメリカで購入し値引きして提供し始めた。National Council for the Welfare of Disabled Personsでも、社会福祉開発省の地方のセンターでコンピューターを教えようとしている。
 統合教育のためにON-NETはベイスライン調査を実施し、盲学生の教材の支給に問題があることがわかった。教育省やRFBなどの10ヵ所のセンターに、6-7000ドルの予算でコンピューター2台、点字エンボサー、スキャナーを装備した。ホーム頁を作り、そこに教科書をのせ、3月から教師がダウンロードしてエンボサーで学生に提供できるようになった。