フィリピン訪問記:NORFIの取り組みとCBR 
                    

瀧本 薫

はじめに:
CBRワーカー(ボランテイア)のフィールド活動やCBRの継続性を視察するため、Negros Occidental Rehabilitation Foundation, INC (通称NORFI)へ2003年7月8日から4日間滞在した。その間、フィールド訪問に加え、Family Programや近隣の病院、特殊教育センターへの見学も行った。今回はNORFIの現状を報告する。

1. NORFIについて:1982年、西ネグロス州を中心に、すべての障害者のインテグレーションと包括的なリハビリテーション支援の提供をめざして設立。初期の戦略は、NORC(Negros Occidental Rehabilitation Center)と連携して、CBRを通してリハビリテーション支援の効果的な実施を行うとした。また、1988年からはWHO西太平洋州事務所のコラボレーションセンターとして、CBRの実践が評価され、研修機関としての役割を果たすようになった。

1-1. NORFIのめざすゴール:
*ミッション:障害者のQOLの向上をめざした、包括的なリハビリテーションを提供する
l リハビリテーションに関するすべての面での助言を行う
l ネットワーク機関へリファーラルを行う
l 障害の予防やリハビリテーション、自助具、補装具などの研究・調査に従事し、さらに医学的、生物学的な障害と適正な情報を編集し、リハビリテーションの方向性を追及する 
l リハビリテーション従事者(専門者)、地域で関連するワーカーなどのために包括的なトレーニングの実施を行う    など
1-2. NORFIの支援・活動内容
1-2-1.NORCの運営:毎日8:30〜16:00まで訓練(PT、OT)が行われる。特に、センターの代表Dr. Primitivo T Cammayo氏が、週に3回午後に診察を行うときは、患者が多い。受診料は特に決めておらず、各自が払える金額を負担する。スタッフのうち3分の1はボランテイアや、学生のインターンである。(Dr. Cammayo氏は無償でこれらの支援を続けている)
l 身体的な発達の診断と治療
l 理学療法、作業療法
l ソーシャルワーク(個別の訓練後のフォローアップ活動や家族支援・教育を含む)

1-2-2.CBRプログラム(後述2章にて)

1-2-3.装具、自助具のワークショップ:Handicap Internationalの協力で昨年度NORC内に、ワークショップを設立した。遠隔地から訪れる利用者には、宿泊可能なように居室と台所も用意している。2名の職員のうち1名は身体に障害がある。装具の支払いが困難な場合はNORFIが外国支援機関からドナーを探し、支払い(原材料費代)を行ってもらうようにしている。無料ではないが、外部で購入するよりも比較的安い。

1-2-4.大学、専門学校との提携プログラム:理学療法、作業療法士養成の大学と連携し、学生をインターンとして受け入れ、1ヶ月間NORCを中心に実習を行っている。またうち数名は、地方のサテライトセンターに派遣され、同様の実習を行っている。さらにオランダの、Haagse Hoge School, Human Kenic Technology と契約を結び、3ヶ月のリハビリテーション工学系の生徒を受け入れている。実習生は廃物を利用して、いすの作成や移動のための自転車などを作成している。全て、個人に合わせて製作するので、1回/年の実習で1〜2台程度である。(フィールド訪問で製品の紹介をする)

1-2-5.家族計画、妊婦に対するクリニック事業:

1-2-6.CBRプログラムに連携した、リハビリテーションサテライトセンター運営・設立の支援:郊外の地区、村に住む住民にとっては、障害に関する治療や訓練の場所は皆無である。CBRプログラムを通じて、家庭でのホームプログラムは実施されたが、訓練経過や継続して診断を受けるには不十分である。CBRプログラムでは、地区の保健所やLocal Governmental officeと連携して、リハビリテーションサテライトセンターを地区レベルで設立した。現在は14/18(地区レベルでプログラム実施中)センターが設立され、保健所の職員(公務員)と、CBRワーカーやNORFI職員が協力して理学療法中心に支援を提供している。NORFIはこうしたセンターへ専門技術の指導や必要機材の調達、また、CBRワーカーを通じて受付や患者の応対など、補助的な支援を行っている。地区によっては、技術補完の参考資料として、インドネシアCBR-DTCの障害発見に関するポスターが掲示されていた。またこのセンターは、グループセラピー(後述)にも利用され、家族へのリハビリテーション技術の訓練の場、コミュニケーションの場として利用されている。


2. CBRプログラムについて
2-1.概要:
2-1-1.CBRワーカーについて:WHOのマニュアルに沿って、地区で活動している保健ボランテイアを中心にワーカーとして育成している。指導はNORFIのCBR部門のリーダーであるMr, Luis G. Sarrosa 氏とコーディネーターのMs. Lucilyn 氏、また保健所のPT(公務員)や関係機関(リファーラル)の職員があたる。 最初にワーカーの訓練をおこない、コミュニテイーレベルではCBRに係るセミナーを実施し、訓練したワーカーを地域に紹介し、プログラムが開始される。主な活動は、障害の発見や基礎的な訓練の提供、他のプログラムへの照会などである。ワーカーに対しては、毎月活動報告の義務があり、その成果に基づき交通費(必ず支給)や手当(地区による)が支給される。地区によってはlocal governmental office が資金を補助しているところもあり、ワーカーの収入は、多い人で1200ペソ、下は〜100ペソというように開きがある。

2-2-2.プログラム概要:WHOマニュアルに沿った内容を提供するが、現場では障害の予防と診断を中心に以下の3点の活動が大半を占める。現在、西ネグロス県全域の支援をめざし、CBRを通して、医学的なリハビリテーションの機会の提供と、障害児発見を中心活動を進めている。また、地域での自立支援や、医学的訓練後の成人障害者への支援はDSWD(社会福祉開発省)の行う職業訓練への照会、統合教育では特殊教育センター(省庁)への照会、と役割を明確化しているのが現状である。予算削減や外国団体の撤退により、過去に実施した所得創出事業や、村でのワークショップ(車いす、補助具など)は中止・統合している。
*主な支援内容:
@基礎的なリハビリテーションの提供、補助具、装具の支援、障害児(児を対象)に薬の配布
A他部門への照会活動、
Bグループセラピーの活動促進
Cサテライトセンターの促進(1-2-6)

2-2-3.実施内容について
@フィールド訪問
@-@A君:(写真A)
脳性まひの障害を持つ9歳児。家族構成は、父(海外労働者、家へは定期的なお金を送金)、母、本児と3人家族である。4歳から当プログラムに参加しており、当時は座ることもままならなかったという。グループセラピーをはじめ、基礎的なリハビリテーションの内容に参加している。CBRワーカーは月に1回、2回訪問する。村に水道はないが、電気は通っている。A君は父親の収入が他の家庭より比較的多く、生活は安定しているとワーカーは話しており、母親が毎日1時間かけて特殊教育センターへ送迎し、家でのトレーニングも熱心に取り組んでいるという。母親の願いは、歩けるようになることであった。2年前、NORFIの受け入れるオランダのインターンによる自転車(写真B)が本児童用に作られており、一人で運転し同年代の子どもたちと関わっているという。


A:訪問時の写真(母、本児、PT)


B: 廃物を利用して作成した自転車

@-ABさん:45歳
 脳卒中の後遺症による片まひがあり、自宅で寝たきりになっていたところをCBRワーカーが訪問した。3ヶ月の自宅での訓練後、歩行も自立で可能となった。Bさんの地区は特に貧しい地域であり、電気もない。Bさんは3人の子ども(18、17、12)と妻と暮らしているが、生活も苦しく、現在病院の薬を継続して購入できない状況であり妻は嘆いていた。


C:Bさんの自宅の様子


D:C君の様子

他のケースであるが、同年代の脳卒中患者は、自立可能後、家ですることがなく、社会へ復帰することができず、家で静かに暮らしている。この家族は、母親が父親の生活費を捻出している。

@-BC君:7歳(写真D)
 交通事故の後遺症による歩行訓練を実施。家族構成は、父、母とC君と妹(3歳)である。訪問時も父母はとうもろこしとオープンスペースで小さな雑貨を売って生計を立てており貧しい。家も特になく、オープンスペースに屋根をつけて一日の大半を屋外で生活している。とくに歩行の後遺症ということであったが見たところほとんど問題はなく、私の判断では落ち着きがなく、目線があわないことのほうが気になった。近くの小学校に通っているが、訪問時は休みであり、一日格子付きのベッドで大半を過ごしている。

Aグループセラピー(写真):
月に一度、リハビリテーションサテライトセンターで親子訓練や、ファミリーサポートに関する会合を行っている。訪問時のテーマは家庭での訓練の復習としており、PTによるフィードバックや、接食指導が行われていた。ほとんどのCBRワーカーも参加しており、訓練の確認や相互の情報交換の場としても活気があった。この事業に関する資金援助はCBM(独)から捻出されており、ワーカーを含めた往復の交通費、食事代が参加者に支給される。


E:親子訓練の様子


F:CBRワーカーとPT(公務員)

Bその他:
l 白内障の検査(フィリピンChristian for Deaf and Blindが中心) の無料実施:毎週水曜日午後、市内の病院の医師と団体が共同で、無償で視力検査と手術後のフォローアップを実施。症状の軽いケースは継続して検査に参加、入院が必要な場合はその手続きを支援する。対象は白内障のみである。また必要に応じて目薬など、市販より格安で提供している。一回に6,70名が検査に訪れることもある。CBRワーカーは自分の地域に該当者がいる場合、一人で病院まで来られないケースや、字が書けないなど何らかの支障があるときには必ず同行して協力する。
l 今年度2都市でさらにCBRの導入を図る予定であり、2005年度までには、全西ネグロス県でのCBRプログラム実施を果たす予定である。

3. 所感
3-1.CBRワーカーについて:地区によっては、写真Fに示したように、自分たちでお金を出し合ってTシャツを作成しているところもあった。またNORFIも定期的に、CBRワーカーに対する評価や表彰の機会も持っており、モチベーションを継続させるように配慮している。今回の訪問で受けた印象では、大多数のワーカーが意欲を持って参加しているように受け止められた。一因に継続的な交通費、諸手当の支給は考慮されるが、それ以上にこうしたワーカーに対する賛辞が彼らの意欲を向上させていると信じたい。もともと地区の保健ワーカーを採用していることで、基礎的な学力、識字に関する問題はない。
CBRワーカーが発見、フォローする障害児・者の大半は、脳性まひや脳卒中などの身体機能に問題があるケースである。今回訪問したグループセラピー参加の18名のワーカー中2人が知的障害児の発見を行ったが、特殊教育センターへの照会で終えており、その後のフォローはない。このように実際のところでは、知的障害児・者を支援しているワーカーは少ない。これらの限界について、ワーカーやNORFIは、問題意識は少ないようであり特に意見は聞かれなかった。

3-2.プログラム全体について:フィールド訪問でわかったように、NORFIの実施するCBRプログラムは、ターゲットが主に障害児であり、成人障害者の自立支援や所得創出に関するなどは役割として持ちえておらず、他のプログラムへの照会もしくは身体機能訓練でとどまっている。実際、雇用創出や職業訓練機会、同じ成人障害者同士の情報を交換するようなSHGなどの存在は、今回の訪問では判断することができなかった。
しかし、これだけの実績とNORFIの実践するCBRプログラムの継続性、ネットワークの構築状況、外部団体からの予算の獲得へのアプローチについては評価すべきである。また、ターゲットを絞ったことで、地元密着型での医学的リハビリテーションの機会の増大には確実につながっているといえる。さらに、Local government officeとの連携により、NORFIが全額プログラムや設備投資への負担を負うのではなく、地区レベルでのプログラムの継続へとつながっている。

その反面、現在のNORFI職員の中では、成人障害者の自立や参加に向けて、当事者団体との連携や意識の共有という声は聞くことがなかった。西ネグロス中心部には、もともと障害者団体や自助グループが存在していると聞いてはいるが、NORFIとの連携は感じられなかった。

別添資料

特殊教育(SPED)センター(Rizal Elementary School):教師は大学で専門的な教育を受けているものが大半である。

l 自閉症クラス(1)
l 知的障害児クラス(3)
l 聴覚障害児クラス(2)
l 視覚障害児クラス(1)
(−クラスによっては2部制をとっている)
自閉症児クラスと、知的障害児クラスは定員超過の状態で職員1名につき20名前後を抱えており、児童の年齢や、知的発達レベルにばらつきが大きく指導が難しいことをもらしていた。


自閉症児クラス


視覚障害児クラス

(2003年9月)