ベトナムにおける地域リハビリテーション及び障害当事者エンパワメントを通した身体障害者支援事業

アジア・ディスアビリティ・インスティテート
中西 由起子

 国際協力機構(JICA)草の根技術協力事業のうちの草の根パートナー型として、国際医療福祉大学の「ベトナムにおける地域リハビリテーション及び障害当事者エンパワメントを通した身体障害者支援事業」が平成16年度に採択された。プロジェクト・マネジャーの林由美子さんが帰国したのを機に、プロジェクトの進捗状況をうかがうことができたので、ここに報告する。

 ベトナムでは、近年の高度経済成長に伴い、ライフスタイルの変化に由来する脳血管障害や、交通事故の増加による頭部外傷や脊髄損傷に起因する身体障害者が増加している。しかし、病院内でのリハビリテーションが中心であり、リハビリテーションスタッフは、障害を持ちながら家で生活することや、地域・社会に参加することを支援するという視点が希薄であり、かつ支援にあたるリハビリテーション専門職種が少ない。身体障害者の自立生活や社会参加を支援する地域リハビリテーション活動が未発達のため、殆どの身体障害者が社会から閉ざされた在宅生活を送っている。例えば、チョーライ病院周辺に在住の脳血管障害者の多くは、外出の機会が無く日中のほとんどを自宅内で過ごしている。
 そのためホーチミン市・中央部地区(5、6、8、10、11区)に、地域リハビリテーション・サービス体制を確立し、身体障害者の日常生活訓練や社会技能訓練等のみならず、障害者リーダーの養成やピアカウンセリング等の障害当事者エンパワメントを含めた事業を通して、身体障害者を支援を始めた。
 事業は2006年1月に始まり、3年間継続されることになっている。国際医療福祉大学理学療法学科及び作業療法学科が現地に専門職を派遣し、カウンターパートであるチョーライ病院は、理学療法部に「身体障害者支援センター」を設置し、日本人専門職と共に地域リハビリテーション事業を行う。同病院は1900年に設立された1,632床の大病院であり、32診療科があり、約2300人患者に2,420人(医師512・看護師1087人他)のスタッフがいる。理学療法部には医師3名・理学療法士31名がいる。オープン大学応用ソーシアルワークセンター障害者リソース開発プログラムが、障害者のエンパワメントに向けた障害者リーダー養成やピアカウンセリング等の事業を請け負った。
 まず2006年1-4月には、チョーライ病院理学療法部に「身体障害者支援センター」を設立し、地域リハビリテーション体制の確立を計った。センターは、チョーライ病院理学療法士3名、オープン大学障害当事者1名、国際医療福祉大学派遣作業療法士からなる。5月には地域リハビリテーション活動(デイケア・訪問リハビリテーション)が始まった。デイケアでは送迎サービスを行っている。エンパワメントを目的に個別カウンセリングから活動を開始し、9月からのグループでの話し合いで「外に出たい」という強いニーズが出され、月1回の公共バス利用による社会参加活動が決定された。
 16、17名の障害者(うち11名は車椅子利用)全員が一同に外出するための準備に、毎回スタッフは多忙を極めている。11台の車椅子をどこから借りるか、それを公園や動物園までどうやって運ぶかなど、毎回が課題満載であるという。5月の外出では、Dam Sen公園ピクニックでは10人ほどがチョーライ病院に集まり、病院前の信号のない道路を渡り、障害者には無料化された市バスに乗り込んだ。バスの段は高いので、持参の補助台を道路において乗り降りをした。別途べつの車で車椅子を持参し、公園内の散策を可能とした。
 11月にはその月の上旬から車椅子利用者が乗車可能なバス5台(現状のバス乗降口に車椅子用スロープを追加したバスと、新規に中国より購入した、乗降には運転手と車掌が介助する低車体バス)がHCM市内の3ルートを巡回(午前6時ごろ〜午後6時ごろまでの間、約2時間おき)しているので、試乗会も行った。4月30日からすでに「HCM市内を回るすべての公共バスに障害者は無料で乗車可能」と決められ、いくつかの掲示場所は高すぎるもののバスのタイムスケジュールもきちんと掲示されている。初めての障害者利用ということもあったかもしれないが、現地ドライバーも車掌も即座に車椅子利用者のところに来て介助したのにはスタッフは大変驚いたという。
 今後は、地域リハビリテーションサービスを受けた身体障害者の中の数名をリーダーとして養成し、身体障害当事者団体を育成し、各身体障害当事者団体が、障害当事者エンパワメント活動(ピアカウンセリング、余暇・スポーツ等の社会活動、コミュニティ啓発)を展開し、リハビリテーション専門職と身体障害当事者団体が協働して、身体障害者支援活動を持続的に実施できるようになることを目指している。

参考文献
林由美子、JICAホーチミンセミナー・プレゼンテーション資料、2006年10月21日
JICA市民参加ホームページ
http://www.jica.go.jp/partner/kusanone/partner/detail/vie_04.html
____、メールでの報告、2006年 5月 4日、11月 14日、
The Tuoi Tre, Jan.11,2007