ESCAP・中国障害者連合会主催 
障害者における貧困緩和に関するフィールドビジットとワークショップ報告

DPI日本会議事務局 宮本泰輔

1. 概要
a) 会議名 UN ESCAP/CDPF Field Study cum Regional Workshop on Poverty Alleviation among Persons with Disabilities
b) 会議期間 2004年10月25日〜29日
c) 会議場所 フィールドビジット:中華人民共和国甘粛省定西市ほか
      ワークショップ:同省蘭州市
d) 本会議の目的
 第2次アジア太平洋障害者の十年の行動目標文書である、ビワコ・ミレニアム・フレームワーク(BMF)の7つの優先領域のひとつ「貧困緩和poverty alleviation」について、中国農村部における障害者を対象とした先進的な貧困削減プロジェクトを実際に訪問し学ぶとともに、ワークショップを通して各国の知見や世界の動向に関する知識などを共有し、障害者の貧困削減に向けて望ましい方向性を考えていく
e) 主な参加者
中国側 中国障害者連合会 国際部
             教育就業部
    甘粛省障害者連合会
    定西市障害者連合会
    甘粛省政府 同共産党委員会
    世界銀行北京事務所
    中国農業銀行
    他、各地の障害者連合会の代表など 計 約100名
ESCAP側 ESCAP事務局
      WHO
      各国からの参加者(バングラデシュ・カンボジア・インド・インドネシア・ネパール・フィリピン・ベトナム・日本)
      他、リソースパーソン 計 約20名
      日本からは、JDF準備会を代表して兒玉明代表(日本身体障害者団体連合会会長)と兒玉介助者として宮本泰輔(DPI日本会議事務局)が参加した
f) 全体スケジュール
   10月24日(日) 09:30 成田発 11:55北京着 (CA452)
         15:00 北京発 17:05蘭州着 (CA1221)
25日(月) 終日フィールドビジット
       石灰岩工場・農業機械製造福祉工場・ジャガイモ開発有限会社・羊の飼育を行う農場の見学
       この日は定西市のホテルに宿泊
26日(火) 終日フィールドビジット
       羊の飼育プロジェクト・ジャガイモ技術開発基地・豆腐工場・養鶏などを行う福祉農場の見学
       蘭州へ戻る
27日(水) 終日ワークショップ
       開会式
       ワークショップの目的について
       基準規則・ビワコミレニアムフレームワーク(BMF)・権利条約
       障害者のエンパワメントに向けた開発アプローチ
       貧困の概念や測定と、ESCAPにおける貧困の撲滅
       障害者の貧困の監視:ミレニアム開発目標とBMF
       貧困と障害に関する地域内の概観
       貧困と障害を関連付ける分野別の課題
28日(木) 終日ワークショップ
       貧困と障害を関連付ける分野別の課題
       各国からの発表
29日(金) 終日ワークショップ
       障害者の貧困の削減に向けた世界・地域規模の努力
         (新しいパートナーシップ・技術協力)
       起草委員会(共同宣言作り)
       共同宣言の発表
       閉会
       パーティー
30日(土) 13:10蘭州発 15:30北京着 CA1272
       17:10北京発 21:30成田着 CA451

2. フィールドビジット(視察)
 フィールドビジットは、ワークショップ会場のある蘭州市から車で高速道路を1時間ほど行ったところにある定西市と、そこからさらに山道を2時間ほど進んだところにある隴西県で行われた。これらの3地域が属する甘粛省は中国西部に位置しており、中国全体の中でも所得が極めて低い地域とされている。訪問した地域全体においては農業が主産業であるが、稲作には適しておらず、ジャガイモやとうもろこし、小麦が主に育てられている。また、羊の飼育も盛んである。訪問した時期は、乾季であったため、いずれの川もほぼ干上がっていた。
 山をいくつか越えたが、いずれも頂上近くまで段々畑として切り開かれていた。地域を設定して植林を進めている。また、高速道路沿いの山では金や銀が取れるとのことで、いくつも小さな穴が開いていた。
a) 石灰岩工場
 脳性まひの青年とその両親で運営。息子のために親がすべての財産を使ってしまい貧困状態にあった。地元の行政当局が3ヵ年の契約をこの家族と結び、石灰岩を砕く工場を立ち上げるための資金を貸し付けた。資金と同時に、技術提供、地域社会への障害者が働くことに対する理解を求める啓発などを実施した。現在では、2台のトラクターを所有するなど、借り入れを返済した上で大きな利益を生んでいる。現在では、他の障害者を雇用しようと検討している。
b) 隴西県渭河農業機械修理製造福祉工場
 地元の農家の農機具の修理や製造を行っている、障害者を多く雇用している工場。地元の行政当局と地元の障害者連合会が共同で企画して、地域の障害者が貧困から脱するための拠点(扶貧基地)として1998年に設立した。中国障害者連合会はこの工場を設立する際にリハビリテーションファンド(康復扶貧貸款)から84万元を投入した。軽度の肢体不自由者と難聴者12名(うち女性3名)が働いている。彼らの平均年収は600米ドルとのことである。工場の利益から、地元の障害者団体に寄付も行っているとの話があった。飼料粉砕機、ジャガイモ粉砕機など、地元農家の需要に応えるものを生産している。当日は、皆新品の作業着を着て仕事に励んでいた。
c) 隴西清吉ジャガイモ開発有限会社
 この会社は、いわゆる「郷鎮企業」と呼ばれる農村部で発展している形態の民間企業で、主に地元の特産であるジャガイモの生産、加工、流通を行っている。この会社自体が障害者を雇用するのではなく、障害者のいる農家とジャガイモの買取について特別契約を結ぶ形で障害者の所得向上を支援している。農家はこの会社と事前に農家の耕地面積と予想される収穫量に応じて契約を交わし、決められた品質(サイズ)以上のジャガイモを納入する。会社はそれを東部の都市部や香港、マカオなどに向けて販売する。また、契約に際して、栽培の指導も会社は行う。これにより、障害者のいる農家が作った生産物が安定して販売できるようになる。1件当たり1500元の収益増となったと報告された。ちなみに、ジャガイモは品種改良の結果、人の顔の半分以上の大きさになっている。
 会社は鉄道駅から近いところにあり、鉄道が物流の多くをまかなっている様子がうかがえた。
d) 羊飼育(五一村障害者羊飼育繁殖基地)
 羊が食肉用に売り出されるまでの間の飼育を障害者世帯に委託する拠点。基地内に設けられた、家族単位で区切られた小屋の中で、貸し出された羊が飼われていた。障害者のいる家庭では、その羊を飼育し、最終的には「村」の委員会に買い取ってもらう。家族の状態に応じて羊の数が決まるようだが、実際には、3人家族から5人家族までばらつきがあったにもかかわらず、貸し出されている羊はいずれも5頭だった。また、対象となっている障害は、肢体不自由、聴覚障害、視覚障害、知的障害にまたがっていた。
e) 羊飼育(小尾寒羊繁殖基地)
 前者の羊飼育とアプローチが異なり、つがいとなる羊を障害者のいる家庭に貸し出す。生まれた羊(一度に4〜5頭生まれる)のうち、1頭を基地に返せば、あとは自分の収入とすることができるシステム。2003年にスタートしたばかりだが、1年間に1世帯あたり平均850元の増収が見られたとのことである。
 続けて、この事業などによって「万元戸」に成長したという成功した家庭(下肢障害の女性・孫もいる5人家族)を訪問した。畑から階段を上がったところに真新しい家があり、衛星テレビのパラボラアンテナやペットの猫など、豊かな都市生活者が備えていそうなものを所有していた。
f) ジャガイモ技術開発基地
 甘粛省の運営するジャガイモの技術開発(病害等の除去、品種改良など)を行う拠点。貧困層の障害者農家(4200世帯)に対して、種芋の供与と技術支援を行う。その後、農家が生産した芋を買上げる契約を個々に交わしている。
g) 豆腐工場
 事故によって片足を失った障害者(男性)に、義足を給付することで、家族とともに自営業を始めることができたという例として、訪問した。これまで訪問したプロジェクトでは、そうした医療・リハビリの介入をほとんど必要としない軽度の障害者が主に働いていたことから取り上げられたようだ。
h) 栄昶飼育繁殖福祉農場
 牛の飼育と養鶏を、貧困層の障害者を対象に行っている。あまり時間がなかったのでほとんど見て回るだけだった。

3. ワークショップ
 ワークショップは甘粛省蘭州市にある寧臥荘賓館(宿泊も同じ)で行われた。中国側からは、北京の本部と地元の障害者連合会が主に参加したが、同時に開かれた中国障害者連合会の会合に出席していた全国の幹部たちも多数傍聴した。
 ワークショップの詳細については、ESCAPで作成しているホームページhttp://www.worldenable.net/cdpf2004/finalreport.htmを参照いただきたい。
a) 発表など
@  冒頭にESCAP事務局から、ワークショップの期待される成果として、複線方式(twin-track approach)、貧困克服開発戦略に障害に関する事項を統合させることなどを盛り込んだ「共同声明」を作成したいとの表明があった
A  最近の障害者を取り巻く世界的・地域的動向についての講義があり、「障害者の機会均等化に関する基準規則」「BMF」、「権利条約の策定作業」について話があった。(議題1)
B  障害者のエンパワメントに向けた開発アプローチという講義では、以下の点が強調された。(議題2)
1. 開発と貧困緩和はゼロ・サムゲームではない
 2. マクロ空間的な開発フレームワークは、マクロ社会的・マクロ経済的なフレームワークと同様に、持続可能かつ公平な貧困緩和に向けて重要である。
 3. 統合的な戦略や一貫した政策フレームワークは、「複雑な」アプローチよりもむしろ「シンプルな」アプローチによってもたらされる。
 4. 障害インクルーシブ貧困緩和の「モデル」はないが、障害の視点から貧困緩和の政策やプログラムを再設計するための一義的な原則はある。
 5. 持続可能で公平な貧困緩和には、政策やプログラムのデザイン、実行、成果に関するフィードバックを得ることのできるアクセシブルなコミュニケーションのフレームワークが必要である。
C  アジア太平洋地域における貧困と貧困の根絶に関する概念と測定についての講義と、中国側からの報告があった(議題3)。
 ESCAPからは、従来的な所得から見た貧困のモデルに加えて、社会からの排除に着目したモデルを紹介した。
 中国障害者連合会は、貧困緩和に向けたよい戦略を紹介した。その戦略においては、以下の点が盛り込まれている。
 1. 調整された計画作りと協力した実行を行うために、さまざまなレベルにおいて政府の全般的な貧困緩和戦略に障害者のための貧困緩和を盛り込む
 2. 貧困にある障害者を社会全体で助けていくように呼びかける
 3. いくつかの地域において地元の障害者連合会と中国農業銀行が共同管理している、「リハビリテーション・貧困緩和基金」に予算配分をする
 4. 地域の障害者組織のサービス提供力の強化と農村部の障害者への基本的なサービスの提供を行う
 5. 国内の地域ごとの特性や需要に応じた効果的な貧困緩和のプロジェクトを選定する
 6. 障害者を組織し、自立した、尊厳ある、自立心のある市民となるよう推進していく
  また、中国農業銀行(国営銀行)は、上記の発表を受けて、銀行が実施している障害に関連した活動(リハビリテーションローン)について発表した。ローンの目的として、障害者の貧困緩和基地(拠点)もしくは福祉的な企業の支援や就労能力のある貧困の障害者に小規模貸付を低利で行うなどがあり、現在までに48億元余りを有している。現在抱えている課題として、以下の4点を述べた。
 1. 貧困状態の障害者は比較的競争力がなく、負債の返済能力に欠けている
 2. 商業銀行として、監督機関の定める貸付条件や手続きを踏み越えることができない
 3. 保険会社がないために、リスク回避の能力はきわめて低い
 4. いくつかの極端な貧困がある地域では、不良債権の比率が極めて高い
D  障害者の貧困をモニタリングするという講義があり(議題4)、国連ミレニアム開発目標(MDGs)目標1、BMF目標21のいずれも所得に基づいた貧困の定義を行っているが、ESCAPの研究では、潜在能力、社会からの排除、参加に基づいた貧困の定義で進めていると述べた。また、あらゆる貧困緩和に向けた努力に障害者が活動的に参加するための能力構築や、自己評価アプローチについて議論が行われた。
E  アジア太平洋地域における貧困と障害の状況についてESCAPから説明があった(議題5)。世銀の報告を引き、アジア太平洋地域の貧困線を下回る8億の人口のうち、20%が障害者であることや、その多くが農村部や遠隔地に暮していることが紹介された。
F  貧困と障害を結びつける要因についての講義があった(議題6)。要因が多岐にわたる中で、議論は教育と雇用に収斂した。
G  2日目には、ILOのビデオを観たのに続いて、議題6の続きとして、WHOの専門家から貧困、障害とCBRについての発表があった。発表の中では、下記の点について言及された
 1. 貧困の悪循環を断ち切るために、貧困緩和、教育、リハビリテーションを含むよいヘルスケアに均等に力を注いでいく必要がある。
 2. 地域社会の関与とオーナーシップ(主体性・当事者意識)がいかなるCBRプログラムの成功に向けて極めて重要である。
 3. 多くの部門の協力がすべての基本的なニーズをカバーする上で必要である。
 4. CBRプログラムのすべての段階(計画・実施・評価)において、障害者,障害者組織、家族の関与が必要である。
 5. より広範な波及、持続性、効果を考えたときに、国家の関与と支援が絶対的に必要である。
H  各国からの発表と質疑が行われた(下記参照)。
I  最終日にはESCAPのビデオ(公共部門と民間部門の貧困緩和に向けた協力)を見た後、締めくくりの討議が行われ、政策に関連する事項とよい事例に関する事項の2つをテーマに話し合われた(議題10)。
J  最後に「共同声明」を採択し、ワークショップは終了した(下記参照)。
b) 各国の発表
 各国とも、前日の話を踏まえて、口頭では就労・所得創出に関する発表が目立った。ESCAPのホームページには、下記の国のカントリーレポートが掲載されている。バングラデシュからは、自身の団体(CSID Centre for Services and Information on Disability)の活動紹介と、障害者を対象とした雇用に関するアンケート調査の結果などが報告された。フィリピンからは、マグナカルタやアクセス法をはじめとする法制度や、自治体レベルでの障害予算割当てに関する制度などが報告された。
 このカントリーレポート発表は、もともとESCAPが参加支援をした途上国参加者に課せられていたもので、日本として特に準備をしていなかったが、ESCAP事務局から日本の紹介も必要であるとの急な要請があった。そのため、各国の関心が雇用にあったことや一部の国で雇用割当制度をスタートさせていることから、民間企業の雇用割当制度の現状や問題点など、経済が伸長している国が今後課題となりうるテーマについて発表を行った。
@  カンボジアhttp://www.worldenable.net/cdpf2004/papercambodia.htm
A  中国http://www.worldenable.net/cdpf2004/presentchina.htm 
B  インドhttp://www.worldenable.net/cdpf2004/paperindia.htm 
C  インドネシアhttp://www.worldenable.net/cdpf2004/speechintegration.htm 
D  ネパールhttp://www.worldenable.net/cdpf2004/papernepal.htm 
E  ベトナムhttp://www.worldenable.net/cdpf2004/papervietnam.htm 
c) 共同声明
 最終日に共同声明が採択され、政府が貧困緩和計画、プログラム、プロジェクト全般において障害の問題を含めることや、障害者や障害者組織の能力構築などを支援するよう求めた。
d) 日本からの発言・発表
日本からは2名が参加した。上記のカントリーレポート発表(別添ファイル参照)を含め、プログラム中で積極的に発言・質問を行った。
 「障害インクルーシブな国際協力disability-inclusive development」という提案が国連特別委員会でタイからなされている旨を紹介した。参加者の中ではあまり知られていなかったようで、中国の代表がこのアイデアを評価していた。
 中国障害者連合会の貧困への取り組みについて、所得額ではない、平均寿命などの他の指標について、障害を持たない者との差はどうなっているのかという問いを行った。中国側からは、正確なデータはないとしながらも、5年ぐらい遅れていると思っていてほしいと回答があった。また、中国農業銀行のリハビリテーションローンについて、他の貸付との利率の差や貸付限度額、返済能力をどのように判断しているのかなどについて質問を行った。利率は一般の貸付の半分に抑えてある、返済能力の判断については困難が伴っているが、詳細は時間がないので答えられないという回答であった。
 上記のカントリーレポートの発表では、差別禁止法への取り組みや現状、年金制度などの社会保障に及ぶ幅広い質問が参加者から出され、議論が活発になった。

4. その他
a) 通信環境
 フィールドビジットを行った定西市・隴西県のみならず、省都である蘭州市のホテルでさえも、電話・FAXはスムーズでなかった。ホテルも一番ランクの高いとされるホテルであったが、ビジネスセンターのパソコンはインターネットに接続されていなかった。何とかESCAP事務局の部屋でインターネットにつなげられたようだが、きわめて速度が遅いとの話だった。しかし、いずれの地点においても、また移動中の山中においても携帯電話の電波は完璧に入ってきた。農村部で、誰が携帯電話を持つことができるのだろうかという疑問もあったが、すれ違う車の中には高級車もあり、貧富の差が相当あるのだろうと思われた。
b) 98年度郵便貯金事業のその後
 DPI日本会議では、98年度にボランティア貯金寄付金事業として、中国西安市で「西安電力機械製造公司障害者連合会」に対して、ソフトウェア(障害者雇用データベース)開発のための技術支援と資金援助を行った(概要はhttp://www.din.or.jp/~yukin/98.htmlを参照)。その際に、中国障害者連合会が障害者の求職・求人情報のネットワーク化を模索していることについて、私は通信網の整備状況から、否定的な見解を持っていた。
 現在の中国障害者連合会のホームページには、この事業で開発したデータベースへのリンクが設置されている(現在は事情は不明だがリンク切れになっている)。これを見る限りは、当初の計画通り、全国的にネットワークを展開する計画を持っている(あるいは実施している)ことがうかがえる。
 当初私が懐疑的になった主な理由であるインターネット環境についてだが、中国障害者連合会では独自に高速回線を確保しており、支部単位に至るまで高速アクセスが可能になっている。フィールドビジットで訪れた定西市の障害者連合会事務局でもスムーズにインターネットを使用することができた。
 このように、中国障害者連合会では政治的な力なども背景にして独自にインターネット環境の整備を進めた結果、西安市で開発したソフトウェアが全国的なネットワークの下で活用可能な状態にあると結論付けられる。

5. 感想
 ESCAPでは来年6月にバンコクでこのワークショップのフォローアップを計画している。私自身としては、こうした会議を通して何を目指そうとしているのか、ESCAPとしてのより明確なビジョンを持ってほしいと思う。参加者たちが、会議中も会議後も何を期待されているのかがはっきりしない会議だった。
 中国障害者連合会は、普段外国人が立ち入ることのない農村部に参加者を招き、「よい事例」を多数紹介した。フィールドビジットに向けて、通る村々には私たちを歓迎する横断幕が掲げられ、街角のボードにはペンキも真新しく「障害者の貧困を救おう」「社会全体で障害者のことを考えよう」などというスローガンが大々的に踊った。海外からの視察があるということが、この地方の行政や共産党、障害者連合会を刺激し、プロジェクトのはずみになるという計算がうかがえた。そうした意味では、中国側にはメリットの大きなイベントであったに違いない。
 中国障害者連合会からは、しきりに「技術協力」という言葉が出された。資金援助に言及しないのは、権利条約でも議論されている「国際協力」の中で資金移転に対する北半球の国々を意識した物言いであろう。と同時に、中国障害者連合会が750億円近い基金をリハビリテーションファンドに蓄えていることからも、資金面に一定の自信があるのかもしれない。
 中国からの参加者は個別によく話しかけてきていた。彼らはそれぞれの省・市の障害者連合会を代表してきており、こうした海外のリソースとの接触を得る希少な機会だったのだろう。
 今回は、日本身体障害者団体連合会のご好意により、渡航費等の諸経費をご支援いただいた。有意義な参加ができたことに感謝申し上げたい。

              (16/11/04)