ベトナムのCBR

1 ベトナム・ベンチェ省でのボバース法の実践

  第92回アジア障害者問題研究会まとめ
  1999年3月6日
  順天堂医院・石田利江

2 ベトナムのCBRと障害者

  第94回アジア障害者問題研究会報告          
  1999年5月8日

           


ベトナム・ベンチェ省でのボバース法の実践

第92回アジア障害者問題研究会まとめ
1999年3月6日
順天堂医院・石田利江


*国際的資格であるボバ−ス・セラピストとして、「ベトナムの子供達を支援する会」の活動でベンチェ省で休暇を利用して、脳神経障害の特に小児のために派遣されている。現地の子供の治療とPTの指導にあたった。
*ベンチェ省はメコンデルタにあり、衛生状態が悪い。ベトナム戦争中には枯れ葉剤も大量に撒かれた。総合病院であるグエン・ディン・チュウ病院と、伝統医学病院であるチャンバンアン病院の2つの病院がある。PTは6人いて、大半はチャンバンアン病院で働いている。ハノイ、フエ、ホーチミンにPT養成校があるだけで全国的にもPTの数は少なく、OTはまだ養成されていない。
*省の「障害児対策プロジェクト」に協力し、「支援する会」では現在第2次プロジェクト(1997−2000)として、国の事業であるCBRの定着化と、母子保健推進のための妊娠次からの指導、援助、出産管理に力を入れている。今まで、障害児の出産暦がわからなかったり、必要な医療がされていなかった。省では、最近母子手帳を試行した。1次プロジェクトで建設された唯一の障害児学校には、肢体不自由児、視覚と聴覚の障害児の他に親がいないので愛情が欠けるという障害をもつと見なされる子供がいて、リハビリの訓練や装具の作成も行われている。また地域の学校との交流も行われている。
*CBR実施に当たっては、アシスタント・ドクタ−(AD、3年制の医療短大を卒業)とPT(最近作られた3ヵ月養成制度でPTとなった者)がフィ−ルド・ワ−カ−(FW)を募集、選考する。障害者の家族などが応募し、ADとPTが訓練する。FWの多くは、ある程度の仕事を達成してこれからは社会に貢献しようと働いている。家族に訓練法を教えるが。毎日通って一時間づつ直接子供を訓練する者もいる。全くのボランティアであるが、給与を与えようとの話合いも進んでいる。
*会ではベンチェ省人民委員会と協力して、障害児学校の建設やPTの訓練を援助してきた。また、日本で寄付を受けたベッドや保育器をもっていったり、ポリオの子供が多いので装具作りを現地の人に指導したり、日本からの古い装具を改造したりしてきた。
*会の活動では村にCBRチ−ムと母子保健チ−ムが別々に入っているので、昨年8月に省の人民委員会で両者の協力関係の確立に関して、話し合った。松葉杖を知らず歩けない子供もいる。今までは寝かせての訓練が主流であったが、我々の指導で変わってきた。緊張型アテト−ゼを持つ脳性マヒの子供を多く見かけたのは、日本では既に対応ができている血液型不適合や出生児の仮死が放置され、暗い電気が一つだけついているような部屋での出産や仮死の子をすぐに蘇生できないことによる。地域に知的障害児がいても、そんなに問題視されず受け入れられている。


ベトナムのCBRと障害者

第94回アジア障害者問題研究会報告          
1999年5月8日

 1 ビデオ「ベトナムの経験」(1992年制作)
 ベトナム政府は戦後健康を発展の前提条件としたが、保健専門家は不足していた。プライマリ−・ヘルス・ケア(PHC)のすばらしい機構が作られた際、特に戦争で傷を負ったり先天的障害を持つ人々のリハビリテ−ションの必要性が高かった。多くの障害者がサ−ビスの届かない遠隔地に住み、先天的、または栄養不足や衛生の悪さ、病気、事故による障害児は推定 300万人であった。先ず南で1987年にCBRが採用され、レダ・バ−ネン(スウェ−デンの Save the Children)の支援で、保健省を中心に教育省、労働・障害者・社会問題省が調整にあたった。WHOのCBRマニュアルはベトナム語に訳された。デルタ地帯にあるティアンジアン省では人民委員会副委員長を長とするCBR委員会がコミュ−ンを指導した。社会・政治的リ−ダ−対象の啓発セミナ−が開かれ、次にアシスタント・ドクタ−(AD)、リハビリテ−ション・セラピスト(RH)、教育や保健担当職員が教育された。ADは各自のコミュ−ンで人民委員会とCBR導入に関して話合い、障害の発見法や自宅や地域で使われる技能をマニュアルに従い地域が選んだヘルス・ワ−カ−(HW)に訓練する。HWは戸別調査、障害者の発見とニ−ド評価を行い、約100 人を受け持つ。障害者はいないと拒否した家族もいた。近所の人が簡単な補装具を作ってくれるなどの協力がある。省や郡のRHは週に一度家族を訪ね、HWも週に一度技術的なアドバイスや、記録、モタリングのために訪れる。地域の保健ステ−ションのADと家族用に記録カ−ドは2枚@。統合教育はCBRの障害者とその家族のエンパワメントのプロセスの一部である。CBRマニュアルで障害児の教育法を習った小学校教師によって、障害児90%は普通校で学べる。49省全てにCBRを広めるために、ADとリハビリテ−ション技師養成カリキュラムを変更し、CBRを教えている。PTに替わったRTのカリキュラムもCBRに即して変更し、実習は家庭訪問で行われる。省と郡レベルのRTや小児科や整形外科、耳鼻科、リハビリテ−ション医学の医師は、リファ−ラルされた複雑なケ−スを診る。地域の一体感、うまく機能するPHCがCBRの成功につながった。1989年6月に採択された人民健康保護法はCBRを強調している。(まとめ 中西由起子)

 2 ベトナム縦断旅で見て聞いた障害児者とCBR
                  国際医療福祉大学・林由美子
*ホ−チミンのチョウライ(Choray)病院のリハ対象の6割は脳卒中による片マヒで、社会的地位のある人が多く、また中耳炎を放置しての顔面マヒの人もいた。地方からの患者の家族は廊下で寝起きし食事をしながら付き添う。ホンダのオ−トバイにヘルメット無しに乗っての事故による頭部外傷が多いが、その人たちリハビリテ−ションはなかった。
*クイニョン癩センタ−(Qui Nhon Leprosy Center )は患者が1軒つづに家族と住み、コミュニティを作り、家計の足しに漁や野菜作りをしている。身寄りのない高齢用病棟があったが、その設備は完備されたスタッフの部屋とは雲泥の差があった。
*フエの「ベトナムの『子供の家』を支える会」はストリ−ト・チルドレンを対象とし、障害児に車椅子も提供している。小山会長は、障害を判定する人の訓練計画をもっていた。
*リハビリテ−ション病院であるフエ平和の村(Hue Peace Village )は、フエの6地区で実施されているCBRの拠点となっているが、山間部まではまだ普及していない。
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当日配布資料 ー ベトナムのCBR
              ADI 中西由起子
 1986年6月に児童健康保護研究所(Institute for Protection of Children's Health)リハビリテ−ション部長のトラン・トロン・ハイ医師(Dr. Tran Tropng Hai)とスウェ−デンのセイブ・ザ・チュ−ドレンにあたるレダ・バーネン(Radda Barnen)のアンデル・ノルマン医師(Dr. Anders Norman)がティアン・ジャアン(Tien Giang)省とホ−チミン 市で障害に関する調査を実施した。そしてCBRの実施が早急に必要だとの結果がでた。上記の二人が申請書を作成し国の保健省の許可を得て、レダ・バーネンが資金を提供し実施のはこびとなった。パドマニ・メンディスとハイ医師がセミナ−や訓練コ−スを開催し、指導にあたった。ベトナムの文化に合わせてWHOのマニュアルが訳されて使用された。
 上記の調査を行ったティアン・ジャアン省の6コミューンとホ−チミン 市の1コミュ−ンでパイロット・プロジェクトが実施された。プライマリ−・ヘルス・ワ−カ−が家庭を訪問して家族の指導と訓練を行った。既存のプライマリ−・ヘルス・ケア制度に統合されて運営された。2地域の成功したプロジェクトに続いて、以下のような方法でハイ・フン(Hai Hung)省とブィン・フー(Vinh Phu)省でも実施され、フア(Hua )省でも始まった。その主たる活動は、
*保健、教育、政治、人民団体、赤十字等の各種の指導者に、CBRの概念、地域社会の役割、態度の変革などを紹介するセミナ−
*CBRワ−カ−やCBR監督者対象の訓練コ−ス
*国、省、郡、地域レベルで運営委員会および技術訓練コ−スの設置−CBRワ−カ−の大半は障害者の家族、看婦、伝統的治療師、教師、赤十字会員などである。
*リハビリの必要な障害者をさがす戸別調査
*障害者や家族の訓練、障害者のインクル−シブ教育、所得創出、社会統合の推進
 ティアン・ジャアン、ホーチミン、ハイフン、ビンフ、ソンタイ、クアンナン・ダナン、ハノイ、クアン・トリ(Quang Tri)、ハタイ(Ha Tay)、ドンナイ(Dong Nai)、ベンチェの各省で実施され始めている。全省で実施されたとの報告もあるが、確認されていない。
 CBRが国の政策に採用され、1987年に設立されたCBR運営委員会(CBR Steering Committee)は3年後、保健省の下にリハビリテーション委員会と改組された。しかし省、地区、村レベルでの実行委員会は省から独立し、医療以外の教育や職業、社会サービスの分野までも含めた人々が結集しやすいようになっている。
 WHOのマニュアルの他に、D.ワ−ナ−の「障害をもつ村の子供」が、ベトナムの社会的文化的状況に合わせて翻訳・編纂された。医療職の教育課程にもCBRは導入され、CBRに関するカリキュラムが医科大学、53の医療学校、3のリハビリテ−ション校で採用され、全ての種類の障害に関する情報を教えている。CBRは医療の中で強調され、CBR訓練に当たるのは大半が医師であるために、CBRの中心が医療リハビリテーションとなり、身体障害者における成功が最も著しいとの結果が出ている。3年制の医療短大で養成される医師助手(Assistant Doctor)に対してPT不足を補うために2ヶ月の理学療法教育を行い、そのカリキュラムの一部にCBRを導入している。これは「理学療法士・医師助手」と言う資格で、村レベルでのCBRの実施に参加させるためである。
 ソンタイのCBRは、ユニセフが労働・退役軍人・社会事業省の協力でハノイ・ソントイ郡の6コミュ−ンで調査を行い導入したCBRである。
 ベンチェのCBRに対しては、日本の「ベトナムの子供たちを支援する会」が援助を行っている。活動の中心は、専任医師1人とPT3人が配属されている省立チャンヴァンアン伝統医学病院(Tran Van An Hospital)リハビリテーション科である。省CBR委員会の1997年の構成は以下のようになっている。
 ー 省立チャンヴァンアン伝統医学病院
 ー 省立グエンディンチュウ病院
 ー 労働・社会局
 ー 文化情報局
 ー 職業訓練センター
 ー ベンチェ赤十字
 ー ベンチェ女性連合
 ー 財政局
 ー 運輸通信局
いわゆるCBRワーカーとしてボランティア出活動するのは、地域ヘルス・ワーカである。仕事を持っている女性、社会活動への参加経験者、障害児の家族である。赤十字や女性連合を通して募集する。[2]
参考文献
[1]中西由起子、アジアの障害者、pp.、現代書館、1995
[2]古澤正道、赤塚みどり、国安輝重、神谷多紀、板東あけみ、ベンチェ省のCBR支援報告 (1998年12月25日〜1999年1月1日)、ベトナムの子供を支援する会、年月日未詳

添付資料 ー ベトナム縦断旅での日程
                  国際医療福祉大学・林由美子

□ベトナムの概要 ー ベトナム社会主義共和国(Socialist Republic of Viet Nam)
 地理:インドシナ半島の東半分の長いS字型、北に中国、西にラオス・カンボジア
    南北1650km、面積33万2000km2、国土の75%は山岳地帯
 首都:ハノイ市(人口 約300万人)
 人口:76,236,259人(0-14歳:35% 15-64歳:60% 65歳以上:5%<1998.7>)
 民族:54民族(多数民族キン族の他53民族)
 気候:北部 亜熱帯性 南部 熱帯モンスーン(平均26度)
 平均寿命:♂ 65.37歳  ♀ 70.25歳(1998)
 GDP :USD 1,700 8.5%(1998)

□スケジュール
 日付    滞在先    訪問先
 3/23〜26 HCM   CHORAY Hospital
     Phu My Orphanage Mam Non 6
     meet B.S. P.T. Nguyen Thi Huong, President of the association of HCM
3/27〜28 Quy Nhon Qui Hoa Leprosy Center
3/29〜31 Hue
     Hue Central Hospital
     Hue Peace Village
     meet Dr. Nguyen Hong Phuc
    ベトナムの「子どもの家」を支える会
4/1〜3 Hanoi Vien Nhi(Institute for Protection of Children's Health)
     meet MD, Ph.D. Tran Trong Hai

□CHORAY Hospital
 HCM 市チョロン地区にある11階建て、24の診療科をもつ国立総合病院
 1901年   設立
 1969年   日本政府の無償援助により全面改築
 1983年   日本政府の協力により再建
 1995〜99年 JICA参入
 スタッフ:Dr. 約400名、Ns. 約600名、Cleaner 約200名、他PT,事務員等
 ベット数:1150床
 入院患者数:年28000名以上
 PT科:Dr.3名 PT 10名 Ns 2名
    :1日の患者数 平均60名
    :主な疾患・・・片麻痺・対麻痺・顔面麻痺・骨折等
 物理療法・運動療法を提供

□Phu My Orphanage Mam Non 6
 1875年   高齢者のホームレス、孤児の施設としてフランスが設立
 1975年   知的障害児に対するケアや教育を開始
 7:00〜16:00 ケア・リハビリ・教育を行っている
 費用:通所 月40万VND(約4000円)
 利用している障害児数:約400名(HCM市内のみ)うち約100名が通所
 PT訓練の対象数:約100名
 スタッフ:180名(うちPT10名、OT兼務1名)
 卒後:13歳で卒業だが18歳まで継続可能、卒業してもなかなか仕事につけないので地方にある職業訓練校で裁縫や大工等を学ぶ

□meet B.S. P.T. Nguyen Thi Huong, President of the Association of HCM
 ベンチェ省でのCBR:スタッフはPT・Dr.・Ad..・Ns・Midwife・SW等
 日本のNPO「ベトナムの子供達を支援する会」との協力のもと行っている
 HCM市内の状況:いくつかのNGOが入っているが、大都市のためCBRの展開は困難
 CBR対象で多い疾患:CP・Polio・MR
 懸案事項:PTは独立していてDr.やNsとの連携がとれていないこと

□Qui Hoa Leprosy Center
 1929年   フランスが設立、現在はベトナム政府が管理運営
 ハンセン病患者数:子供約250名、大人約600名(家族とともにセンター周辺に居住)
 スタッフ:約150人(Dr. 15名・Ns 40名・ PT 4名・事務員等)
 入所方法:ベトナム中部の拠点であるため、中部各地のcommunityのDr.等から紹介
      紹介後は、センターのスタッフが車で患者や家族を迎えに出向く
 治療状況:3〜6ヶ月の治療の後それぞれのcommunityに帰ることが基本だが、手足の変形等がひどい場合は帰郷が困難で5年以上居住しているケースが多い
    PT室では物理療法(ホットパック・赤外線で患部を温める等)が主体、
  腰痛や手の変形(Volkmann拘縮)を訴える患者が多くなっている
    子供達はセンターのスクールバスでまちの学校に通っている
 費用:無料(食料として米の支給あり)

□Hue Central Hospital
 リハビリテーション科:Dr. 6名・ PT 8名 (PT室には物理療法の機材のみ)

□Hue Peace Village
 1996年  activity(リハビリの訓練:1日4時間)開始
 通入所の障害児数:25名(2〜15歳児)
 スタッフ:Dr. 4名・PT 7名・OT 2名(Dr.・PT各1名ずつ兼務)
 リハビリ:PTは2室で運動療法をOTは学習を1室で家族とともに行っている
     (ベトナムでは障害児者の義務教育はない)
 主な疾患:CP・MR・肝炎後遺症等
 費用:無料(昼食代も無料)

□meet Dr. Nguyen Hong Phuc
 Hue Peace Villageの所長でHue地域のCBRを運営
 CBR in Hue:CBR展開のcommunity 61/151(6/9 district)
       CBR対象者  約1000名
       CBR スタッフ 約160名のHealth Worker、Dr.・PT・CBR Worker等
       CBR評価 3ヶ月に1回
         Dr.HaiやMinistry of Healthによる評価と進行状況チェック
       懸案事項  予算が不十分なため、Health Workerに対し充分な報酬を渡せない
             (ほぼボランテイア的にやってもらっている)

□ベトナムの「子どもの家」を支える会
 「子どもの家」:Hue市との協力のもとHue市内のストリートチルドレンを保護し、衣・食・住・学を提供している
         4〜18歳の64名が居住、それぞれに日本の里親がいて月20USDを負担
 会長小山氏の話から:ベトナムで活動している日本の団体は現地の言いなりになっているケースが多い。現地に嫌われてしまうと活動を継続できないということもありそうせざるを得ないのだろうが、 時には現地と言い争いお互いの本音をぶつけあうことも必要

□Vien Nhi (Institute for Protection of Children's Health)
 リハビリテーション部門:PT 8名・OT 1名・ST 1名
             1日PT1人につき10〜15名の患者を担当
              対象児 1〜15歳
             費用  無料
              ハノイ市郊外からやってきたケースは、ゲストハウスに2ヶ月滞在し訓練を受ける
              本施設は各communityのDr.等からの紹介でやってくることが多い

□meet MD, Ph.D. Tran Trong Hai
CBR in Vietnam:1986年、ベトナム南部から開始
           国内障害者 約700万人(うち子どもは約300万人)
           彼らの90%は地方に住んでおり、10%が都会に住む
           1986年 10 province → 現在 61 province
           国内には1万人のCBR Workerが関わっており、この施設は彼らの訓練施設となっている
           主な疾患:1.身体障害(CPやPolio等)  20%
                 2.LD (MR)
                 3.聴覚障害
                 4.視覚障害
                 5.てんかん
                 6.strange behavior
                他、leprosy等