モンゴルでの障害者支援

第142回アジア障害者問題研究会報告
2003年7月5日 
国際障害者年記念ナイスハート基金・鈴木実

 
*モンゴルは凍土の国、草原の国であり、日本の4倍の広さを持つ。73のアイマク(県)に分かれ、それぞれが選挙を行う大統領制をとっている。遊牧民は減少している。首都ウランバートルは60万人が住む人口過密な唯一の市であり、旧ソ連時代からの火力発電所からのスモッグに一日中おおわれている。
*15万世帯以上が貧困にあり、98年には人口の4.8%が障害者である。学校ではエリート養成教育が行われ、2回連続して赤点を取ると養護学校にまわされる。
*1990年の民主化以来とまっていた年金は、遅配があるが復活した。
*自治体のケースワーカーが認定した障害者は年金をもらえる。
*1ドル=1000トリグルで、生活費は月に100−200ドルである。公務員の月収は約50ドルでアルバイトで穴埋めをしている。コカコーラは1ドルする。したがって公務員でも給与遅配のためのデモをしている。生活保護制度はない。
*韓国、ドイツの影響が大きい。産業はカシミア、銅、石炭であったが、観光業がメインとなっている。
*クル病、ビタミン欠乏症による病気が多い。サプラメントが流行している。
*ウランバートル市内にしか特別学校はない。学校には1番から始って番号が付けられ、たとえば25番は盲聾学校である。寄宿は特別学校にのみ併設されている。ウランバートルに行くのはお金がかかるので、地方では100人に3人ほどの割り合いで知的障害児が普通の授業を受けている。木工、革製品加工などの職業教育が中心である。モンゴル障害者連合のスポンサーであるガンバット氏が自社の革製品工場敷地内で皮製品の指導や農作業の指導を行い、就労の支援をしている。
*第10センターが唯一カ所、学齢前の障害児を受け入れる混合保育園と小児療育センターである。脳性マヒ児協会の事務所を兼ねている。PT、OT、STの免許制度はない。
*92年にモンゴル障害者連合との交流が始まり、障害者2人を招待した。連合の大半は凍傷、交通事故や落馬、鉄道事故で切断となった会員であった。
*95年の訪問の際には、鉄道事故による切断のためニューヨークで自分の義肢を作ったガンボルト医師より、義肢工場設立の希望が出てきた。革製の義肢を作る国立の工場は存在したが、経営破たんでほとんど機能していなかった。98年ボランティア貯金の支援で、有限会社として、サイハンセテゲル義肢装具製作所を始めた。旧ソ連で訓練を受けた元国立工場のスタッフを雇って、日本で訓練を受けさせた。補装具も製作する。成人が中心で子供用もあるが簡単なものであり、この分野の独占企業である。義肢、義足の部品は再利用した中古品を使っている。中国製の義肢は質が悪く、冬場の使用に耐えられない。
*99年からは、@日本からの整形外科医によるクリニックの開設、Aゲルの観光村での交流キャンプ、B養護学校の訪問、C車いすの贈呈、の4つのプロジェクトを支援活動の柱としている。昨年はモンゴル障害者支援年であったので、交流キャンプの一環としてスフバードル広場でアピールを行い、デモ行進もした。
* 中古の品物を持っていくと、渡す相手によって関税が異なった。関税対策のためにモンゴルのNGO としてニンジン財団を設立した。

<当日配付レジメ>
               モンゴル国における障害児・者支援活動
                                              2003.07.05
                                財団法人国際障害者年記念ナイスハート基金
                                                鈴木 実
(1)モンゴル国における障害者の状況
     資料(1)参照

(2)財団法人国際障害者年記念ナイスハート基金が行ってきたモンゴル国での活動
     資料(2)参照
  @支援活動
    a. 「サイハンセテゲル義肢装具製作所」の設立
    b. 障害児教育専門家への支援・交流
    c. 障害児療育専門家への支援
    d. 補装具・車椅子などの支援
    e. 「ニンジン財団」の設立
  A交流活動
    a. 当事者交流の実施
    b. スタディツアーの実施

資料(1) モンゴル国の障害児・者の状況
                              文責:財団法人国際障害者年記念ナイスハート基金
1.モンゴル国の現状
 モンゴル国は中国とロシアの間にあって、日本の約4 倍の広さの土地に約230万人が住んでいます。国民の半数は18歳以下という若い国です。首都のウランバートルは人口が63万人余りですが、他の都市は人口10万人以下で小さく、多くの人が草原で遊牧生活を送っています。冬にはマイナス40度にもなる大陸性の気候です。
 モンゴルは社会主義の国でしたが、ソ連邦の崩壊後の1990年から複数政党制をとり、民主化と市場主義経済への移行を同時に進めてきました。様々な改革が実行され成果を上げつつある一方、こうした移行の過程において貧富の差が生じ、社会的に弱い立場にいる女性、子ども、高齢者、障害者の生活が圧迫されるような事態も見受けられます。1997年末、政府は約15万世帯を貧困家庭と認定しましたが、これはモンゴル全世帯の25 % になります。

2.モンゴルにおける障害者の現状
 モンゴル国内で、人口の4.8%、115,000人が何らかの障害をもつといわれています(1998 年モンゴル国保健省調査)。このうち、20,900人が知的障害、6,500人は聴覚および視覚に障害があり、28,000人は肢体の障害、その他の原因による障害者が42,000人となっています。社会福祉・労働省の発表では、障害者年金を受けている人が38,311人、福祉手当の支給は20,085人、その他障害者に対する控除およびサービスを5,460人が受けています。2000年に障害者への支給手当て、控除、サービスの総計は、約25,000人に対し19億7,100万トゥグルクでした(1,000 トゥグルク=1 米ドル、1人あたり1年間に約78 ドル)。ほとんどの障害者は就労できず、家族の支えがないと生活できない状況です。
 国家体制の変革以降、モンゴル障害者連合をはじめとして障害のある人々の権利を守ろうと20以上の障害者団体が活動しているものの、資金、技術、専門家の不足により、効果的なサービスを行えずにいます。

3.モンゴルにおける障害児の現状
 モンゴルにおいて子どもたちが障害をもつ要因は、貧血、クル病、栄養不良および欠乏という小児科的疾病の結果が多くあります。ユニセフの支援による1994年の調査によれば、1,200人の0歳から5歳までの幼児の49%にクル病、24.3%に貧血、24.7%にヨウ素の欠乏が見られました。0歳から3歳までの600人の乳幼児の86%は栄養不良、貧血、クル病にかかっていました。妊娠中および出産時の外傷、体重が極度に軽いこと、仮死状態での出生などの併発症により、脳性麻痺および知的障害になっています。
 モンゴルには2,000人から3,000人の脳性まひ児がいるといわれていますが、ウランバートル市内にある第10(障害児)センター(モンゴルで唯一、脳性麻痺を中心として肢体不自由児を受け入れ療育を行っている) で治療、教育を受けているのはそのうちの1%位です。ウランバートル以外に障害児に関わる専門家がいないため、地方にいる子どもたちは、ほとんど治療も教育も受けられずにいます。

4.モンゴルにおける障害児教育の現状
 教育科学省の調べでは、学齢期に達した児童のうち、8%(34,000人)が障害児で、うち5.8%(1,972人)は特別学校と呼ばれている障害児のための学校および専門技術訓練・生産作業センターで就学し、21%(7,140人)は一般の教育機関で就学となっていますが、残りの73.2%はまったく就学していません。
 ウランバートル市には、知的障害児のための特別学校が4校、視覚および聴覚障害児のための特別学校が4校と、かつて全国に17校開設されていたものが、現在ではウランバートルに5校あるのみ(公立)と数も減り、予算も極めて限られています。かつてソ連や東欧に留学して専門に障害児教育を学んだ教員は年齢が高く、若手教員は、モンゴル国内で障害児教育を専攻することができないため、一般の教員養成大学を出ただけの教員が増えているとのことです。
 肢体不自由児については、専門に受け入れる教育機関もありませんでした。幼児については1993年から第10センター(障害児幼稚園)1ヵ所のみで受け入れて療育を行い、学校教育についても2年前から数名を対象に始まったところです。
 地方においては、普通の学校の中に障害児のための特別クラスを設ける試みも、一部の町で始まりつつあります。

資料(2) 財団法人国際障害者年記念ナイスハート基金が行った事業の経過

1992 年(平成4 年)12 月
    「国連障害者の十年」最終年記念事業「手をつなぐアジアの若者たち」
    (7 カ国・26 名を招聘しての交流プログラム)にモンゴル障害者連合より2 名が参加
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1993 年(平成5 年)8 月
    中古衣料175Kgを寄贈
    モンゴルの障害者現状調査の実施(事務局より3 名)
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1995 年(平成7 年)7月
    郵政省国際ボランティア貯金の寄付金の配分を受け、「モンゴル障害者支援事業」を開始
         11 月
    モンゴル障害者連合より4名(団長:オフシュ会長)を2 週間招聘してリハビリテーションについての研修を実施
    受入協力:共同作業所全国連絡会、川崎市、ぱれっとを支える会、木村義肢工作研究所、横浜市総合リハビリテーションセンター
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1996 年(平成8 年)2 月
    使用済み車椅子、歩行器等50 台を発送
    募集協力:川崎市
          5 月
    車椅子寄贈の確認および現地障害者の現状調査に専門家を派遣(3 名)。
    テレビニュースで放映。派遣協力:川崎市、ぱれっとを支える会
         7 月
    第1 回「ナイスハートツアーinモンゴル」を実施(16 名)
        11 月
    モンゴル障害者連合より6 名(団長:Dr.ガンボルト)を2 週間招聘してリハビリテーション、補装具についての研修を実施
    受入協力:鉄道弘済会東京身体障害者福祉センター、川崎市、共同作業所全国
    連絡会、ぱれっとを支える会、神奈川でく工房
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1997 年(平成9 年)2 月
    使用済み車椅子、歩行器等63 台を発送
    募集協力:川崎市
         5 月
    車椅子寄贈の確認および義肢装具製作所開設に向けての現地調査に専門家を派遣(4 名)
    派遣協力:川崎市、小原工業(株)、鉄道弘済会東京身体障害者福祉センター、
         8 月
    第2 回「ナイスハートツアーinモンゴル」を実施(18 名)
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1998 年(平成10 年)3 月
    義肢装具製作のため、電気オーブン、真空ポンプ、吸引台など機械設備および義肢材料を発送。
    使用済み車椅子等47 台を発送募集協力:川崎市
          4 月
    専門家を派遣(5 名)し、機械の立ち上げ、技術指導を行う。
    派遣協力:大栄製作所、小原工業(株)
          5 月
    ウランバートル市内に「サイハンセテゲル義肢装具製作所」を開設。
    開設式には日本大使、国会議員等が臨席し、テレビニュースで放映
          7 月
    第3 回「ナイスハートツアーinモンゴル」を実施(16 名)
         10 月
   「サイハンセテゲル義肢装具製作所」より義肢装具士1 名を2 週間招聘研修
    受入協力:鉄道弘済会東京身体障害者福祉センター、大栄製作所、川崎市
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1999 年(平成11 年)1 月
    機械設備、義肢材料を発送。使用済み車椅子等39 台を発送。
    募集協力:川崎市
          2 月
    外務省青年招聘グループ(青年リーダー)を受入れに協力、障害者関連の視察および交流会を開催。
          3 月
    ジャスコ(株)、下取り中古衣料約1 万点をモンゴルの障害者支援のため寄贈。
          4 月
    小児整形外科医及び義肢装具士を派遣(5 名)し、技術指導および医療機関での装具処方の指導。
    派遣協力:心身障害児総合医療療育センター、大栄製作所
          5 月
    障害児・者の交流現地調査のため、関係者8 名を派遣。
    ジャスコ(株)と現地NGO「ニンジン・サン(人道財団)」そして当基金の3 者で3 年間の中古衣料支援を確認する。
          7 月
    日本・モンゴル障害者交流キャンプを開催(於:チンギスハーン村、参加者330名、内日本人63 名)。
    イーグルテレビにより全国に放映された。
    協力団体:日本障害者フライングディスク連盟、日産販労
          8 月
    第4 回「ナイスハートツアーinモンゴル」を実施(22 名)
          9 月
    第10 センター(障害児幼稚園)にモンゴル初のリフト付き中古車両を寄贈。(日産労連)
         10 月
    医師3 名、義肢装具士1 名を2 週間招聘し、障害児医療の現場および義肢装具製作現場で研修を実施
    受入協力:心身障害児総合医療療育センター、鉄道弘済会東京身体障害者福祉センター、大栄製作所、川崎市
    助成:東京国際交流財団、立正佼成会一食平和基金
         12 月
    モンゴル障害児教育現場視察のため障害児教育専門家等8 名を派遣
    助成:東京国際交流財団
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2000 年(平成12 年)3 月
    モンゴル障害児招聘プログラムを実施(障害児10 名、教員等9 名)。
    受入協力:日産労連、ジャスコ(株)、県立千葉盲学校、都立大塚ろう学校、都立綾瀬ろう学校、都立王子養護学校、都立清瀬養護学校、「あきつの園」
    助成:東京国際交流財団
          3 月
    機械工具、義肢材料等を発送。これにより最低限の機械設備が一応揃う。
    使用済み車椅子等106 台、中古装具等79 点を発送。
    募集協力:川崎市、心身障害児総合医療療育センター、
    ジャスコ(株)、第2 回目として下取り中古衣料約1 万点をモンゴルに発送。
    ニンジン財団が管理。
          4 月
    小児整形外科医および義肢装具士を派遣(8 名)。技術指導及び医療機関での装具処方の指導。
    派遣協力:心身障害児総合医療療育センター、大栄製作所
          8 月
    第5 回「ナイスハートツアーinモンゴル」を実施(10 名)
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2001 年(平成13 年)1 月
    モンゴル障害児招聘プログラムを実施(障害児10 名、教員等10 名)。
    受入協力:日産労連、ジャスコ(株)、本田技研工業(株)、日本障害者フライングディスク連盟、都立綾瀬ろう学校、都立葛飾盲学校、都立北養護学校、都立江東養護学校
    助成:全日本冠婚葬祭互助協会、東京国際交流財団
    「モンゴルの子供たちはいま」をテーマに公開フォーラムと交流の夕べを開催。参加者200 名
          2 月
    医師3 名、義肢装具士1 名を2 週間招聘し、障害児医療の現場および義肢装具製作現場でそれぞれ研修を実施
    受入協力:心身障害児総合医療療育センター、鉄道弘済会東京身体障害者福祉センター、大栄製作所、川崎市
    助成:東京国際交流財団、立正佼成会一食平和基金
          3 月
    機械消耗品、義肢材料等を発送。
    使用済み車椅子等118 台、中古義肢装具等333 点を発送。
    募集協力:川崎市、心身障害児総合医療療育センター、日本アビリティーズ協会
          4 月
    小児整形外科医および義肢装具士を派遣(4 名)。技術指導および医療機関での装具処方の指導。
    派遣協力:心身障害児総合医療療育センター、大栄製作所
          6 月
    ぱれっとを支える会、モンゴル障害者支援の「チャリティー能公演」を開催。
          7 月
    ホンダ太陽(株)より、車椅子13 台の寄贈を受ける。モンゴルへ7 台を運搬
    輸送協力:日本航空(株)
          8 月
    第6 回「ナイスハートツアーinモンゴル」を実施(16 名)。
    日本・モンゴル障害者フォーラムを開催(於ウランバートル市)。
          9 月
    イオン株式会社(ジャスコより社名変更)、第3 回目の中古衣料を発送
         10 月
    外務省青年招聘グループ(障害児福祉・教育従事者)を受入れ、就労の場の視察および交流会を開催。
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2002 年(平成14 年)2 月
    モンゴル障害児招聘プログラムを実施。今回は視力障害児を中心に招聘(児童5名、教師5名)。
    受入協力:筑波大学付属盲学校、都立葛飾盲学校、板橋区、板橋区加賀福祉園、板橋区志村児童館、社会福祉法人日本点字図書館、財団法人アイメイト協会
    医療福祉関係者の専門家招聘招聘研修を実施。医師2 名、社会福祉庁長官の3名を招聘し、福祉政策、障害者へのチーム医療の重要性を確認。
    受入協力:ホンダ太陽株式会社、たんぽぽの家、国立身体障害者リハビリテーションセンター、心身障害児総合医療療育センター、鉄道弘済会東京身体障害者福祉センター、大栄製作所
         3 月
    中古義肢装具等115 点、中古車いす等33 台を発送。
    募集協力:日本アビリティーズ協会、川崎市障害者更生相談所、心身障害児総合医療療育センター
         5 月
    小児整形外科医および義肢装具士を派遣(各1 名)。技術指導および医療機関での装具処方の指導。派遣協力:心身障害児総合医療療育センター、大栄製作所
         8 月
    2 回目となる日本・モンゴル障害者交流キャンプを開催(於:チンギスハーン村、参加者250 名、内日本人50 名)。
    協力団体:日本障害者フライングディスク連盟、日産販労他
    障害児療育セミナーを開催。日本から小児整形外科医をはじめ、OT、PT等のご協力を得て開催。
    日本人:8名、モンゴル人:70名
    車椅子製作をモンゴル国内で実現するための専門家交流・研修会を実施。日本より6 名参加。