バングラデシュ障害者福祉法の内容とインパクト

第141回アジア障害者問題研究会報告
2003年6月7日
日本キリスト教海外医療協力会元ダッカ事務所代表 平本 実
                             

* 2001年1月から3年間、首都ダッカに駐在し日本キリスト教海外医療協力会の連絡調整業務にあたる。2003年2月から3月にかけて、JICAの短期派遣専門家(障害者職業訓練アドバイザー)として再び訪バ。
* インド亜大陸の独立時、インドとは別にイスラム国家として独立したパキスタンの東側が現在のバングラデシュにあたる。そのパキスタンから、言語、富の収奪等の理由でバングラデシュとして独立したのは1971年。独立後の混乱から30年経った現在も一人当たりGNPは380ドルで、日本の1/100。しかし絶対的貧困状況から、都市と地方、富者と貧者の格差が開く相対的貧困にと様相が変わってきている。首都には高層ビルが建ち、病院にはMRIやCTスキャンもある。お金さえ出せばかなりのサービスが受けられる。電化率は全国で20%強。そのほとんどが都市部に供給される。地方の開発は遅々として進まない。北海道の2.5倍の国土に日本とほぼ同じ人口が住み、その7-8%は首都ダッカに集中。
* バングラデシュはNGO大国でもある。最大規模のNGOであるBRAC(バングラデシュ農村復興委員会)は2万人のスタッフを抱える。大小1000を越えるNGOが全国、地域で活動している。障害福祉分野で活動するNGOは、全国障害福祉団体連合(NFOWD)を組織してアドボカシーなどを行っている。
* 障害者観は、90%が信じるイスラム教に因るところが大きい。喜捨の文化があり、富む人は物乞いや障害者に対して金品を与える。ヒンズー教の影響かカースト的価値観も感じられる。階層間の移動が極めて少ない。
* 国勢調査は家庭訪問に基づいて10年に1度行われているが信憑性は薄い。1991年調査では、中間報告で減るはずがない人口が減少との結果が出て、その後修正されるようなこともあった。2001年の調査には、家族の中での障害者の有無を尋ねる項目があり、障害者人口が割り出せるはずであるが、結果はまだ出ていない。NGO側は抽出調査に基づき人口の7-8%、政府は人口の約10%が障害者であるとしている。
* バングラデシュは省庁の数が多い。障害者対策の管轄は社会福祉省(MSW)である。以前は社会福祉女性省であったものが、分割された。社会福祉省(MSW)は省庁の中でも弱い省である。国の予算は税収からの経常予算とドナー機関からの開発予算からなる。MSWへの開発予算割り当てはその1%であり、政府の中での優先順位の低さがわかる。省の下には社会福祉局(DSS)一つと外郭団体三つがある。DSSはさらに地域福祉部と施設福祉部から成る。CBRを推進するとされているが、地域福祉部の活動はマイクロクレジットなどが主で、実際の障害者関連の活動は施設処遇が中心である。
* 国立の身体障害職業訓練センターは視覚障害者を対象に始められたが、今は他の身体障害者にも広げられている。1年(10ヶ月)の訓練に150人が入所する。事務次官の終了式での挨拶は、「修了したほとんどの人に残念ながら仕事を紹介できない。センター併設の福祉工場で雇えるのは数名である。後は村に帰ってNGOに相談に行ってほしい。」であった。
* MSWが管轄する全国障害者福祉財団(NDDF)は、NGOを通して障害者が自助具購入や研修に参加するための費用を助成している。助成金は財団の基本財産の利子で運営。ただし基本財産は財団職員の給与にも充てられているということで、財団の今後に不安がある。
* NGO140団体が加盟する全国障害福祉団体連合(NFOWD)が80年代後半に起草し、10年以上にわたって働きかけた結果、2001年に障害者福祉法が成立。そこには、全国調整委員会(National Coordination Committee)、執行委員会(Executive Committee)、県委員会(District Committee)を設置することが定められている。それぞれ国家レベルでの障害分野に関する政策提言、その実務のための連絡・調整、そして県レベルでの障害者の実態調査と認定、登録を行うこととなっている。実際にはこの法に定められた実態調査も認定、登録も予算措置などがなく、期限、責任なども明確にされていないので実施が危ぶまれている。国民の法への認知度も低い。
* 障害者の優先雇用に関する政令では、中級以下の公務員の10%は、障害者または要養護児童(孤児)を雇用するように定めている。しかし、実際にはほとんど遵守されていない。
* 最近になって都市銀行では障害者を対象にした融資制度が開始された。
* 障害当事者組識BPKS(バングラデシュ障害者福祉組合)は、活動の一環として村にショミティ(自助グループ)をつくることを推進している。これは、メンバーが毎週集まって積み立てをし、共助のために貸し出す貯蓄信用組合である。グラミン銀行やBRAC等のマイクロクレジットを利用するとより大きい額が借りられる。しかし利子は高く、その利子は地域の外に出て行ってしまい自分たちの利益にならないので借りないという言葉を聴いた。エンパワメントに対する意識の高さを感じた。BPKSは各々が地域連合体を組みNGOとして登録して、自分たちで運営できるようになるよう働きかけている。この障害者福祉法の成立によって障害者の社会的地位が向上することをBPKSはあまり期待しておらず、むしろ地道な地域からの組織化とエンパワメントを加速させていきたいと考えている。

<当日配付資料>

    アジア障害者問題研究会レジュメ   2003年6月7日(土)1500-1700

「バングラデシュ障害者福祉法の内容とインパクト」

                   日本キリスト教海外医療協力会
                   元ダッカ事務所代表 平本 実

1) 自己紹介
2) バングラデシュという国
3) 障害者の現状

4)国家政策/組織
・ 障害者福祉政策、サービスの窓口は社会福祉省

バ国政府 GoB

社会福祉省
Ministry of Social Welfare
__________________|__________________
|             |           |          | 
社会サービス部    全国社会福祉財団    全国社会福祉協議会    アル・ナフィアン財団
Department of  National Disabled    National Social Welfare     Al Nafian
Social Services (DSS)  Development         Council            Trust
Foundation             

・ 2001年障害者福祉法の成立とその後

5) GOの対応
・ NFOWD (National Forum of Organizations Working with Disabled)

6) 当事者組織
・ BPKS(Bangladesh Protibandhi Kallyan Somity)の事例

7)課題と展望

<写真>

身体障害者雇用リハビリテ−ション・センタ−


センターの建物


併設の点字印刷所


PCによる点訳


ペットボトル工場予定地


センター製造の義肢装具


プラスチック容器製造機


視覚障害者職業訓練


センター製作の耳型


工業機械研修

障害者地域センターCommunity Center for Handicapped


センター外観


施設内での理学療法


障害者財団費用助成の車いす

バングラデシュ障害者福祉協会BPKS

日本大使館援草の根無償資金協力による本部


協会製の車いす


コンピューターコース


宿舎


BPKSの援助で作られたマクニゴンジ障害者団体事務所


団体運営委員

団体に加盟する信用組合
(ショミティ)例会


ショミティの資金による自営業1
紙袋づくり

自営業2 体重測定屋

自営業3 茶屋


自営業4 市場での鶏販売

マヒ者リハビリテーションセンターCRP


正面入口

職業訓練


木のおもちゃの販売


座位で仕事可の車いす


生活訓練施設


病棟入口

国立特殊教育センター


事務所と教室


故障して放置された送迎バス


視覚障害児の歩行訓練


点字による学習


特殊教育教員養成