バングラデシュ・マイメンシンのテゼ共同体が始めた障害者コミュニティ・センターの人々


第134回アジア障害者問題研究会
2002年11月2日
日本キリスト教海外医療協力会 岩本直美


             
* バングラデシュは日本の四分の一の土地に日本の総人口にをこえる1億44万近い人が住んでいる。政府やNGOの推定では、障害者はその8.5%。障害分野のNGOは200ほどある。
*バングラデシュ・マイメンシンのキリスト教修道士によるテゼ共同体には、4人のブラザーがいる。長い人は27年も居住し、障害者、老人、ヒンズー教アウトカースト、スラムの人たちと過ごしている。共同体を開設したときには多くの人が訪れてきた。障害者の集まれるところが必要になり、交流の場としてのコミュニティ・センターを作った。
*センターはバプテスト教会の土地に建てられた。12ほどのプログラムがあり、曜日によって活動が決まっていて、木曜日午後はオープンハウスに当てられている。駅にいる家のない子、近所の子などを含め300人ほどが出入りする。その中からスタッフを採用することもある。紹介サービス、予防等に関する啓蒙教育を行う。障害者と知的障害児の親の会がある。
*「信仰と光(知的障害の人たちの世界的ネットワーク)のグループの月一回の集りには、40家族ほどが来る。98%はイスラム教徒である。核となるグループが毎回質問を考える。読み書きのできない、人前で話したこともない母親たちは、「アラーの神は何故この子を送ってきたか」には、「神の憐れみを教えるため」と答えた。「あなたにとっての台風は」には、障害児がいるからとさっさと再婚してしまった夫をあげた。彼女たちは自分から望んだり、または当然のこととして別れている。高齢の夫と若くして結婚し、子供に物乞いをさせて食べている母親は、早めに出かけてきて駅で寝てその日を待つ。
*肺炎等で亡くなることが多いので、重度の障害者にはなかなか出会わない。話せて歩ける障害者は、労働の即戦力であり、茶店を任されている障害児もいる。
*女性障害者のグループもある。星の数ほどある女性の組合に障害者を入れるように運動しても、役員たちはほとんど関心を示してくれなかった。重度の人の家に集まるようにしていたが移動費(力車のお金)がかかり、結局センターに集まることになった。物乞いをしている女性たちや、親や兄弟に食べさせてもらっている人たちもいる。選ばれた5人の世話役が、プログラムを作る。月に35人全員がクラブ日として10円の他、1タカを出す。合計額35タカ(70円)は、力車代の援助に使う。センターは資金の援助はしない。活動としては、イスラムの大きな祭り、イードの時に砂糖菓子を貧しい順に届けたり、国際婦人デーにはドラマをしたり、年に1回のピクニックなどを行う。結婚の際には女性は持参金が必要であり、障害があるとそれが2、3倍になる。結婚した10人全員は棄てられていて、2人のみ子供を手元に残せた。文字や縫い物を習いに毎日通ってくる少女もいる。全員で集めたお金で力車を1台買い、1日50円で貸している。800タカで政府から力車を買えることになっているが、役人の手を回って4000タカで購入。車体がだめになっても、100タカで営業免許だけでも貸せる。物乞いをしているメンバーが多く、それを当然の仕事のように物乞いに出ている。
*共同体では少数民族の子供たちを住まわせて、学校に通わせている。北部から来た子供に障害者がたくさんいると聞き、そこの地区の教会で障害者の集会を開いた。
*レベルの高い内容で脊髄損傷者の治療や専門家の養成も行っているCRP(麻痺者リハビリテーション・センター)とは協力関係にある。国内各地からの入所希望者が待っている状態ではあるが、緊急に治療が必要な障害者を受け入れてもらっている。

配付資料

JOCSバングラデシュ派遣ワーカー岩本直美さん報告会・資料

(社)日本キリスト教海外医療協力会(JOCS)

岩本直美(いわもと・なおみ)ワーカーのプロフィール
1963年滋賀県生まれ。大津赤十字看護専門学校卒業。大津赤十字病院、社会福祉法人第一びわこ学園、滋賀県立小児保健医療センターに勤務した後、インドやイギリスなどの福祉施設やNGOでボランティアとして働く。93年から3年間JOCSワーカーとしてバングラデシュのボグラハンディキャップセンターで働いた後、英国にて地域主導型リハビリテーション(CBR)の修士号を取得。99年6月より再びJOCSワーカーとしてバングラデシュの障害者コミュニティーセンター(CCH)にて障害を持つ人々の自立援助に携わっている。この8月にCCHでの第一期を終了し、9〜12月にかけ全国にて報告会を開催中。2003年3月より第二期活動を開始する予定。



その肥沃な国土からしばしば「黄金の国ベンガル」と形容されるバングラデシュ。その首都ダッカから車で約2時間北上したところに、バングラデシュでも古くから最も栄えた北ベンガルの中心地、マイメンシンはあります。1999年6月、岩本さんはこの町にある障害者のためのコミュニティーセンター(CCH)に赴任。以来3年余りに渡り、現地の人々とともに活動を行なってきました。
この機会をとおして、現地での岩本さんの活動の様子を紹介いたします。

☆バングラデシュの紹介

歴史:
1947年にインドがイギリスから独立した時、宗教や様々なちがいにより東ベンガル地方はパキスタンの一部、東パキスタンとなる。しかし、西パキスタンとは地理的にも離れ、政治・文化・経済・言語のちがいもあり、また、西パキスタンの植民地のようになったため、東パキスタンに民族運動が発生した。1971年3月、東パキスタンがバングラデシュとして独立宣言。これをめぐり、東・西パキスタンは内戦に突入。インド軍の支援もあり、西パキスタンは敗北、1971年12月、独立を達成した。

自然:ベンガル湾の最奥部に位置し、インドとミャンマーに挟まれる。国土の大部分はガンジス川やブラマプトラ川、メグナ川といった大河の三角州にあたる海抜10。以下の平らな土地である。例年繰り返される洪水は、土壌を肥沃にし、米・ジュート・茶などの主要作物の生育を促進する他、川や池での養殖や漁業にとっても欠かすことのできない「恵みの水」となっている。

気候:熱帯モンスーン気候に属し、大きく雨季(5〜10月)と乾季(11〜4月)に分かれる。一年中夏と思われがちだが、実は、六つの季節(夏・雨季・秋・霜季・冬・春)がある。雨季と乾季の変わり目には、ベンガル湾に強力なサイクロン(熱帯低気圧)が発生する。1991年のサイクロンでは14万人もの死者が出ている。

経済:米・ジュート・茶を中心とする農業国。全雇用の約6割が農業関連に従事している。約5千億円ある輸出の8割近くを縫製品が占め、続いて冷凍エビやジュート、皮革が代表的な輸出産品。主な輸出先はアメリカ、ドイツ、イギリス、日本。外国からの援助が政府の財政支出の半分近くを占める。通貨はタカとポイシャ(1タカ=約2円)。

教育:義務教育は6歳より5年間。小学校は1年生〜5年生、中学校は6年生から〜10年生。10年生終了後、卒業資格試験を受け、合格者はさらに2年制の高校へ進学できる。小学校への就学率は約80%だが、5年生まで進級できるのは約7割に留まる。近年、識字率は向上しているが、依然として男女間の格差(男63%・女48%)は改善されていない。

☆日本と比べてみると...

        バングラデシュ               日 本

・人 口:   約1億4千万人             約1億2千7百万人
・面 積:   約14.4万I(北海道の1.8倍)      約37.8万I
・宗 教:   主にイスラム教、ヒンドゥー教      主に仏教、神道
・言 語:   ベンガル語               日本語
・GNP/人:370米ドル               32,230米ドル
・平均寿命: 59歳                 80歳
・1歳未満児死亡率:  58(1000人中)     4(1000人中)
・5歳未満児死亡率:  89(1000人中)     4(1000人中)
・医師一人あたりの人口: 5,555人         564人
・識字率:   男 63% 女48%           男女共99%以上
・義務教育:  11歳 小5まで           15歳 中3まで

                            (出典:「世界子供白書2001」他)

バングラデシュの障害を持つ人々の状況は?

 世界最貧国の一つに数えられるバングラデシュでは子どもの栄養不良や早婚、周産期管理の不備、感染症、自然災害や高所からの転落そして車の事故等により、総人口の約7.8〜8.8%の人々に何らかの障害があると言われている(ちなみに、総人口のほぼ等しい日本では約4.5%)。約82%の人々が農村に生活し、一般の医療サービスを受けることができるのはわずか45%の人々といわれる同国にあって、障害を持つ人々が必要な情報やリハビリテーションサービスを受けられないまま社会から取り残されていることは想像に難くない。
1990年代に入りバングラデシュの障害分野NGOは急増した。その活動形態は地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)、特定の障害に関する専門的治療・教育、権利擁護、障害分野人材養成等だ。障害者リーダーが主導している団体もあるがまだ少数で、活動の多くは都市部及びその周辺に集中している。
 相互依存社会であるバングラデシュは障害者・非障害者が共存することを促し、その風景は一見豊かな障害受容がなされているように見える。しかし現実は厳しいと言わざるを得ない。約80%の人々が絶対貧困レベルに生きるバングラデシュでは、明日の糧を得られるかどうかが多くの人々にとって最優先課題となっている。なお且つ社会一般の多くは障害を「アッラーの思し召し」として受けとめている。このため障害の原因を本人が犯した罪の報い或いは母親の罪に拠ると理解している場合が多い。障害をアッラーの前に不完全な身体としてモスクに入ることを認めないこともあり、また女性の場合結婚の対象から外されるか或いはその持参金が数倍になることもある。  
このようにバングラデシュにおいても人々の持つ心身の障害が、彼等が生きることを困難にしている本当の問題ではない。いのちの尊厳を見出すことが困難な社会の現実、根強い偏見差別と障害に対する無知、そして、人々の誤った態度が障害を持つ人々の能力の開花を押し留めている。その結果、彼等の多くが自分自身の価値や命の尊厳、そして潜在している能力に気付かないままおかれている状況に甘んじている。障害の予防・早期発見早期介入・人権教育等の社会に対する啓蒙、そして身体機能回復のための適切な治療・教育と合わせて、一人一人の人間としての価値をあるがままの状態で明らかにしていくことが最も大切なことだといえる。 

テゼ共同体とは?

ブラザーロジェにより創設されたキリスト教超教派の男子修道会。キリスト者間の和解、そして分裂対立する人類家族を少しでも和解と一致へと導くことができたらという願いのもとに始められた。単純素朴な分かち合いの生活、最も貧しく困難な状況におかれている人々との信頼の生活を通して、分裂する人々の直中で和解の「しるし」として息づく。
 マイメンシンのテゼ共同体には4人のブラザーが約25名の少数民族の青年達と共に生活している。病を負う人や障害者、様々な困難を抱え行き場のない人達が毎日テゼを訪れる。ブラザー達は貧しい子供たちに教育の機会を提供し、駅で生活する子ども達を世話している。刑務所に収監されている人達を訪ね、生きることの意味を摸索する青年達に耳を傾けている。多くはイスラム教徒である人々との深い交わりを通して、ブラザー達は宗教・言語・文化等の違いを超え、人々が一致して生きることが可能であることを示している。
障害者コミュニティーセンター(CCH)とは?
 マイメンシンのテゼ共同体により1997年に市内に創られ、その後NGOとして認可を受けた。行き場のない障害を持つ人々とその家族が安心して気楽に集える場所、そして人間対人間の交わりを通してそこに集う人々が癒され自分自身の尊厳に気付いていける場所として始められた。12名のスタッフが多数のボランティアと共に500名程の多様な障害を持つ子ども・大人そしてその家族達と共に活動している。人々を歓迎するオープンハウス・市内や村での障害啓蒙教育活動・機能訓練・自助具補助具の制作・必要な手術治療支援・家庭訪問・小規模資金貸与・子どもの就学支援・成人識字クラス・裁縫クラス・知的障害を持つ子どもとその家族友人達の集い・女性障害者達の集い・絵のクラス等の活動がある。

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