カンボジアでの精神保健NGO の活動

第131回アジア障害者問題研究会特別講演会報告
2002年7月6日
途上国の精神保健を支えるネットワーク(SUMH)ボランティア・浜島恭子


* SUMHのボランティアとして2001年10-12月にカンボジアで調査を実施。
* ノルウェー・オスロ大学の2000年の発表では、人口の13%が大うつ病という高い結果がでた。89%に悩みがあり、28%がPTSD(外傷性ストレス症候群)との数字はベトナム帰還兵に近い。PTSDの24%のみ専門職に相談。内戦経験は個人的なものであり内在化しなかった。
* 一般の州立病院でも精神保健が分かる人はいない。常設の精神科外来診療所3か所、巡回精神科診療所3か所、少なくとも6か所のNGOによる地域精神保健活動、プノンペンに1か所の心理社会リハビリテーションのデイケアがあるが、全て外来ケアで入院はない。精神科医師は11人、カウンセラーは約20人いる。医療面が整備されつつあるが、福祉面では何もない。
* AMDAで働いていた日本の臨床心理士がAMDAの撤退の際に、SUMHを設立。以前あった医療制度が崩壊している状況の中、シェムリアップ州で精神保健ケアを含む地域保健活動モデルの創出、および心理社会リハビリテーション専門家養成ができるカンボジア人専門教員の養成が目標。そのため、シュムリアップ州病院に心理社会リハビリテーション施設を設置し、地元のNGOであるCCMHSと連携地域精神保健事業を行うため、2001年5月よりベイスライン調査を行った。
* 一回目の調査ではプロジェクト地と調査地を確定するためNGOの文書をチェック。2回目は、プロジェクト地と活動内容の調査。一般情報、健康問題、患者への態度、Crazy personとの出会い、Crazy personへの対応、精神保健への関心等を、王立プノンペン大学心理社会学卒業のSUMHのスタッフ3人とハーバード訓練プロジェクトの1人が個別に質問。SUMH事務所に近い都市部スベイ・ダンコムと農村部スラナルを比較するために選ぶ。調査票に自由回答してもらった結果、狂気の原因として頭にスカーフを被らない、頭を帚で殴らないこと、予防策としては妻を二人もたないこと、体調が悪い時にはマッサージや系絡にそってコインで擦ること、クメール人の占い等が出てきた。訪問活動中は、知的障害やてんかんの人を紹介されることが多かった。
* カンボジア人専門職養成は94年にノルウェーが英語で実施していた。現在はSUMHが実施。ハーバード訓練プログラムから出発したCCMHSはコミュニティワーカーを養成。プログラム撤退後は細々と現地NGOとして残っている。
* TPOは、オランダのNGOを現地に移管したものであり、95年2月より4地域で心理教育、ポスター作成、ラジオでの啓発を行い、アルコール中毒の男性、家庭内暴力の女性、心理社会問題や貧困などの女性などの16の自助団体を育成している。集会の出席者には100バーツとビタミン剤が渡され、昼食を提供されるグループもある。SUMHではその活動評価を行い、分かちあいやリラックスした雰囲気をよく思う人がいる反面、TPOのスタッフが一方的に話すので自助活動ではない、PLAではないとの意見も得た。
* 地雷の被害者の約半数は自殺を考えるといわれているが、HIなどのNGOは義肢装着などが主で、取り立てて精神的なケアをする場はなく差別により孤立している。彼らの精神保健ケアのために、他のNGO と協力できたらいいと思った。

TPOのセルフヘルプグループ。
Mad personの絵を見せている。


シアヌーク病因精神科外来 政府運営。
1994年にAMDAが精神科をつくった。
その後ノルウェーの支援を受ける。
薬はさまざまな国から輸入。



<当日提出のレジメ>

1. 背景:カンボジアの精神保健の状況
@カンボジア国民の精神衛生
・2000年に公表された精神保健疫学調査(97-99年)では、人口の13%が大うつ病
(うち女性15.6%、男性9.5%)
・28.4%がPTSD(外傷後ストレス症候群)
 →うち24%だけが医師や薬剤師・看護婦・教師などの専門職に会って相談した。
<出典:手林佳正「カンボディアへの精神保健協力」、精神障害とリハビリテーション、Vol.5 No.1、2001年6月>

Aカンボジアの精神保健資源
 医療:保健省の管轄下、整備されつつある
・3か所の常設の精神科外来診療所(プノンペン・コンポントム・バタンボン)
・3か所の巡回精神科診療所
・NGOによる少なくとも6か所の地域精神保健活動
・人的資源は精神科医師11人
 →ノルウェーのオスロ大学NGOが養成(英語)
・カウンセラーなど約20人
 →複数のNGOが独自の基準で養成、国の養成機関としてプノンペン王立大学社会心理学部
・心理社会リハビリテーションの場はプノンペンに1か所、NGOと市保健局との共同
・NGOは保健省と提携
 TPO(Transcultual Psychosocial Organization)
 SSC (Social Service for Cambodia)
 CMHDP(Cambodian Mental Health Development Program)
 CCMHS(Harverdプロジェクトの後身)
  福祉:なし

2. SUMHの活動
・心理社会リハビリテーションの専門家による日本初の国際協力NGO
・1997年設立、2001年より現地プロジェクト開始。5年後2006年までに技術移転を終える予定。
 目標 カンボジアにおいて精神保健ケアを含む地域での保健活動モデルをシェムリアップ州において創出すること。心理社会リハビリテーション専門家を養成できるカンボジア人専門教員の養成。
 活動 シュムリアップ州病院内に心理社会リハビリテーション施設を作る。地域医療資源と連携して、精神科疾患を持つ人の生活の舞台である村落において、精神保健アゥエアネス・精神科疾患を持つ人への援助・家族援助・地域の人々への援助・保健従事者教育などの、地域精神保健事業を行う。具体策として9つのプロジェクトを企画(→別紙「和今洋在」P.60)。
 @ベースライン調査:2001年5月〜8月。プロジェクト地と調査地を確定するための調査。
 Aベースライン調査:2001年9月〜2002年1月。プロジェクト開始前のシュムリアップ州住民の
 一般的保健活動、精神保健また精神障害者に対する知識、行動についての調査。
 調査地:都市部はシェムリアップ市内SvayDankum 地区、農村部はSranal地区
 対象:100世帯10歳以上計832名が調査対象者、うち629名(76%)に面接調査実施
 調査票:全14種類。高齢者(51歳以上)・村人(19-50歳)・青年(14-18歳)・子ども(10-13歳) 、
 キーパーソン=僧侶、伝統治療師、伝統産婆、校長、教師、薬局、クリニック
 地雷被害者、HIV患者、NGOスタッフ
 共通質問:一般情報、健康問題、患者への態度、Crazy personとの出会い、Crazy personへの対応、精神保健への関心。質問の数は24項目前後。
B現在の活動 2002年2月〜。二年間の「心理社会リハビリテーション専門家研修」
 研修生6人:医師1人・准医師1人・プノンペン王立大学社会心理学科の卒業生3人・ワーカー1人 
 午前中に講義。毎週、訪問活動。

3.他のNGOの活動 
1)現地の精神保健NGO:TPO (Transcultual Psychosocial Organization)
スタッフは男性3人+女性3人。シエムリアップ地域で4種類16のセルプヘルプグループを運営。
@男性のアルコール中毒者のグループ
A女性のDVのグループ
B女性の心理社会問題を抱えるグループ
CHIVのグループ
2)精神保健以外のNGO−技術移転・協力−
・アンコール小児病院
・HI 
  
→地雷被害者の精神保健ケアはこれまで取り組まれてこなかった

<添付資料>:手林佳正「途上国の精神保健を支える活動―人的育成と他機関と協調した地域保険福祉モデル―」季刊『Review』41号、2002年7月、全家連


途上国の精神保健を支えるネットワーク
SUMH [Supporters for Mental Health]

東京事務局  住所:153-0065 東京都目黒区中町1-25-16
Tel /Fax:03-3711-3461
E-mail :tojoukoku@geocities.co.jp
http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Ayame/3428/
シュムリアップ事務所
Office:  No.233 Group 5 Mondul 3, Khum Slarkram, Siem Reap, Cambodia
Postal Address: P.O. Box 93102 G P O Siem Reap Angkor, Cambodia