最近のCBR ー インドネシア・ソロとタイ

第129回アジア障害者問題研究会報告
2002年5月11日
JICA専門家育成個人研修員・瀧本薫
          

*インドネシア・ソロのCBRは、障害児のための団体YPACで活動の一環として、アウトリーチに近い形で始まった。その後独立し94年から98年は日本財団からの支援で、PRAの手法を取り入れたCBRを開始した。地域社会のオリエンテーションとして郡と区各レベルで一日のワークショップvを行い、状況分析のための集会には障害者を含む村の人が集まる。人数制限はなく、フィールド・ワーカーが進行役を務め、マッピング、ダイアグラム作り、マトリックスを行う。しかしこの活動は98年を最後に新しい地域へとは広げていない。
*地域住民の組織化に力をいれ、村人l、役人、障害者など15人ほどからなる、運動の中核を担うCBR委員会を設立している。しかし、障害者の割合は少ない。現在はCBRワーカーとなっている障害者も少ない。ワーカーの訓練はCBRDTC(CBR開発訓練センター)で5日間行われ、地域開発、技術、障害問題を取り扱う。参加者にノは報酬が支払われる。委員会が1</FONT>年ごとに部門に分けて計画を作り、成果が上がりやすいもの選んで実施、センターは村人を通して支援する。モニタリングは随時実施される。
*センターの活動@早期発見、早期介入:センターは乳幼児の正常な反射や身体の成長をわかりやすく描いたポスターを、村の婦人団体がボランティアで月1回体重測定、予防接種などを行うときに、障害の発見も入れている保健所(ポシアンドウ)などに配っている。センターが婦人団体を訓練。終了後はトンカチ、バドミン塔gンセットなどが活動を促進する為のお土産として渡された。センターが発行したマニュアル本25種、ポスター2種類は世界で訳され使われている。簡単にスクリーニングを行い、障害があればセンターが医療機関を紹介し、日本財団が支援した時期には手術費用を負担していた。 A基礎リハビリテーション療法:財団の支援で95年からは1年間有給で働く12人の地域のリハビリテーション・フィールド・ワーカーを訓練した。日本のPT協会がこの訓練を担当。そのうち2名は今でも村で専属として働いている。他の10名は離職、若しくは村から離れてしまった。現在ではセンターからワーカーが村に行き、CBRワーカーに技術を移転するケースと直接家庭訪問により訓練を行うケースとに分かれる。 B統合教育:95年より先ず2地区4校を対象に開始。今まで200校の250名以上の教師を訓練。ジョグジャカルタ大学と共同でマニュアルを作成し、センターはセミナー、ワークショップ、親の相談、モニタリングを受け持ち、スムーズに実施されている。親、学校、教師は障害児への接し方がわから轤ク、ドロップアウト率は高かった。学校には学習遅滞者と学習障害者が多い。1クラス40人なので教師の負担は大きく、特別教師の採用を提言している。教育局と校長が障害児の入学の可否を決めるが、CBR実施地区では断らない予定である。 C所得創出:必要がある村のみで実施。センターは1村に300万ルピア(3万円)を貸し付け、2、3グループにわけ、各グループがルールを決める。グループには協力してくれる地域のカウンセラーがいて、失敗したらグループ内で補填する。センター側はあくまで資金、訓練の提供と助言であり、個々の活動内容はあくまでグループや個人の決定を支持する。3郡6村の約13のグループの103名の障害者と親が参加、養鶏、縫製、箒、籐家具づくり等を行う。 D自助グループの育成:CBRプログラムとは独立して、センターは障害者の地域での自営が出来るように資金の貸付と訓練、さらには障害者の組織化をめざして助言を行う。CBRプロジェクト対象外の3地域80名が参加。身体障害の20-30代で、全く教育の機会を得なかった者、小学校卒、ソロの職業訓練校終I了者と様々である。これまで家にいて、外へ出る機会のなかった障害者、また働いても給与は少ない人たちが、自宅を仕事場とし、以前と比較しても個々の生計は最低限安定してきた。さらに年に1回の障害者の日のデモなど活動、地域社会に向けてのアプローチも活発に行う。ソロから1〜1.5時間ほどのグループは、貯めた資金で作業所を作り、今では政府の建物の1室を借りて会議をしている。ソロのグループは地方条例に1階を平らにする項目を入れさせた。
*センターは職員が33人、会計、事務、手工芸のスタッフの他にCBRワーカーが7人いる。政府との協力は難しく、職業訓練校はNGOと連携しようとしない。職員は若く、2、3年の経験しかなく、人材が乏しい。現在は資金源となる支援者を探している。
*タイでは@FCD(タイ障害児財団)の事業の一部としてナコンシータマラート、ACCDのナコンパトム、Bシーブルリアン財団のシーブル泣潟Aン、Cキリスト教系のNGOのポンピサイでの4箇所のCBRを訪問。@では学校へ通うのが困難な児童に対し、週1回教育局より2時間訪問があり、教育の機会を提供している。年に1回試験がありパスすれば普通学校の単位として認められる。また親のグループが組織化され、統合教育を推進している。障害児が大きくなり職業訓練、職業紹介が必要になり成人障害者に対する支援が急がれる。一例としては地域の職業訓練校卒業の身体障害者が自身で作業所を作り、仲間とココナツから様々な製品を作っている。これらの作品はホテルや日本のNGOで販売。なお日本のNGOの支援により他の障害者の技術訓練が行える棟を併設した。AはFCDが着手し、その後自分たちで宗教儀式とあわせて財団が作れるように資金を集めた。病院の1棟をPT訓練室と事務所にし、2人は病院から、2人は財団からの給与で働いている。AとCは子供中心の医療を実施。Bは保健所のスタッフの養成に協力をして、@とBは保健所と今後連携していく予定。Cは週1回オートバイに乗って訪問。@ABは予算があり、Cは資金が苦しい。タイのCBRはNGOが実施し、重度で教育を受けたことのない人を対象にしているのが特徴。学校との連携はできているが、地域謔フ啓発は進んでいない。登録制度もいきわたらず、成人を対象とするCBRは少ない。


当日配付資料

*インドネシアCBR−DTCの実践と現状報告

1.背景:1978年、Dr ハンドヨ氏によって中部ジャワ州の農村部に居住する脳性麻痺児の治療訓練を対象に始まる。その後、実践を通して現在のCBRコンセプトを構築していった。1994年からは新しいコンセプトに基づきCBR開始にあたり、PRA(Participatory Rural Appraisal)による分析を導入し、地域住民の啓発に視点をおいた実践を行った.
(CBRの経過)
1978〜1993 CBR形成期:医学リハビリ中心のアウトリーチによるプログラム 13郡
1994〜 新しいコンセプトに基づき包括的なプログラムを提供:資金・P丁技術指導提供(日本財団からの支援) 5郡/17村
1997〜現在 雇用創造、自助グループの組織化、統合教育など新しいプログラムの強化 3郡/6村

  

2.CBRの定義(CBR−DTC)
 障害を医療の閉趣として捉えるだけでな<、社会が間題であると捉えCBRの対象は障害者を含む地域社会とした。CBRとは障害者間題に関連するプログラムに効果的に障害者が参加し、地域社会の態度、知識、技術の向上努めることを含むものとした。すなわちCBRは、障害を持つ人々が自分の家族と地域仕会の中で「完全参加と平等」を達成していくための、対価性の高い方法であると定義した。
3.CBRーDTC現在の活助

現状/長所・短所
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D
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I*
月一回の村の〜母子保健活動に組みこみ、既存の村落の婦人ボランティアを育成し、発見のためのスクリーニングのポスターを配布し、広く普及させる
長所:病院、保健所との照会制度が整備されている/既存の杜会資源を活用した取り組圧みである。*ED(Early Detection:早期発見/Early Intervention:早期介人)
プライマリ|リハビリテ|シヨン 1年問育成したワーカーが、結婚、移転などを理由に、離職(現在は2/12名のみ活動).現在は、直接職員が村へ行き、1回/1M程皮の訓練を行う。現在24名が対象である.個別支援で行っていた手術への照会・資金援助や口蓋裂児の治療などは予算不足のため中止している。現在は、自助具や車いすのみ提供を行う。訓練具は2本バー(竹製)中心に家族に作り方の指導を行う。
短所:ワー力一が離職し、直接センターの職員が訓練している/ワーカーは無報酬である(初年度はセンター負担の有給制でその後は1回について交通費程度のお金を支給)/専門的な技術の指導になるため、短期の訓練では技術移転が困難である(ワーカー育成のための予算確保と人材確保が難しいと判断している)
長所:地域や農村部での医学的リハビリテーションが可能となる
統合教育 教育局との連携で教員に統合教育の研修を実施。[各校1名〜2名/年一回]
実施者は学校と教育局であり、センターは三ヶ月に一回モニタリングを行う。地域は拡大中で、5郡で実施。ジョグジャカルタ大学と共同でマニュアル本を作成し、配布している。
長所:推進にあたり、教育局から直接の依頼による実施と協力を得るほか、他団体(大学/NGO)との連携が確立している
短所:統合対象児童の障害は軽度、若しくは学習障害児中心で、比較的対応が容易なケースのみである/地域に出て統合教育の普及活動は行わない/MR児・自閉症に対して、指導の経験は特に浅く短期の研修やマニュアルだけでは限界がある/省庁からの特別な予算や教員の増員などの配慮はない
所得創出 1998年〜実施、3郡6村を対象、16グループ中1グループを除いてグループでの資金が増益した。(対象障害者とその家族105名参加)
中心事業は、養鶏、縫製、ココナッツによる砂糖作り、民芸品づくり等である
長所:所得創出活動が成功して、個人の収人が安定した/増益分の資金を、地域の住民へ貸し付けを行うなどして地域へ還元している
短所:決して各個人は高額の収人ではない
セルフヘルプグル|プ 1998年度〜実施、現在ソロ近郊で3グループを組織した。(80名以上の成人障害者が参加)そのうちの1グループが独自で資金を確保し、2000年9月に3日間にわたりワークショップを実施した。地域の学校の職員、病院、公務員、住民、などを招待し、計200名以上が訪れた。障害者の現状を報告し、権利擁護の要求を行った。地域住民と役人の賛同を得て、成功を収めた。(しかし役所からの具体的な協力体制は、まだ明確に提示されていない)
長所:当事者が社会へ向けて啓発活動を行うことで、直接アピールができ、インパクトが強い/グループを通して、自身や他人の問題を通して障害者自身の啓発が行える/ソロ市のアクセス運動が成果を見せ、地方の条例制定に影響を与えた
短所:インドネシア全体の交通アクセスが悪く、障害者の移動代が大きな負担である/障害者のリーダー的存在となる人物が育っていない/職員は現在3年目で意欲は高いが経験が浅い

4.障害者のエンパワメント促進に向けての支援

4−1.SHGの活動と役割について:以下に記した活動を通して障害者個人のエンパワメント
促進とグループを通して、障害者の人権の平等に向けて杜会の意識改革を要求することをめざす
内部活動 経済的な促進 知識・技術の向上(個人的)
他のNGO団体との共同でトレーニング、グルーブスタディーなどを行う
ネットワーク作り、流通支援(個人的)
個人企業創立の支援
外部活動 アドポカシー 政府事務所に対して
社会に対して(NGO,施設含む)
教育 訓練,相談(聴覚,視覚障害者支援)
行動 キヤンペーン、デモンストレーション、イベントの開催
(図=筆者作成CBR-DTC:SHG活動レポート参照)

4−2.所得創出プログラムについて:
(CBR-DTC支援の内容)
  ●雇用創出のためのグループを編成する(パートナーやカウンセラーとしてCBRワーカー、村役場の公務員などを含む)
  ●小さな事業を起こすための運転資金を提供する
  ●所得創出のマネージメントに関するトレーニングを行う
(プログラムの役割)
  雇用創出活動を通して、地域の中で障害者の二一ドと彼らの能力を明らかにすることが可能となる。すなわち障害者が自己選択・自己決定において仕事を行い、結果がもたらせられることで、彼ら自身のエンパワメントは促進される。また、グループ会合や地域の中で互いに影響しあい、支えあうという相互扶助の関係が成立し、その効果は地域仕会と障害者に直接もたらす。

5.所感
 1ヶ月の間に通常の活動と別途に、センターの職員と、ソロ近郊の公立の障害者に関する施設やNGOを訪問した。職員の話によると公立側からの実質の協力はなかなか得られないのが現状だという。一例を挙げると、障害者職業訓練校などはNGO側の障害者セミナーなどの情報発信にも腰は重いという。またセンターの職員は公務員よりもさらに安い給料で、かつオーバーワークというなか、若年層の人れ替わりが激しいのが実情である、センター内でも職員自身の研修の必要性、モチベー一ションを向上させるべ<新たな敢り組み必要としていた。NGOの現状として運営上予算確保、人材確保は課題である。現在センターは過渡期を迎えている。またセンターとしての障害者当事者の主体的参加や育成をどこまで重要と見ているのか、現場のやる気のある職員と所長との開き、また他の職員の意欲がかみ合っていないように感じられた。

*タイのCBR支援の現状報告

1.タイNGOの実践するCBRの現状
1−1:訪問地域(CBR)
●FCD/ナコンシータマラート
●CCD/ナコンパトム
●シーブルリアン財団/ノンブアランブール県シーブンルアン
●タイのカトリック教によるNGO団体でアメリカのマリノアG(同様クリスチャンのNGO)と共同で実施/ポンピサイ
1−2:
現状 課題 考察
CBR NGOによる実施が中心 医学リハビリテーションを中心に提供・フォローアップを行う(親へのホームプログラム提供・訓練遊具・自助具作成の助言)
*統合教育、ノンフォーマル教育の推進を行い教育局との調整や、職員の研修を実施
親グループの組織etc
障害者Gの促進、職業紹介(5件中2件)
*シーブルリアン財団のみNGOから独立、県立病院内に事務局を置く、地域主体へと移行
*予算確保(NGOから独立採算制をとる5件中1件)
*既存の社会資源との結びつきが弱い
*実施者がNGOなので地域住民のブログラムに対する意識が弱い
*障害者登録が進んでいない
*アクセシビリティ(医療・教育.交通)の問題
*政府⇔NGO⇔地域杜会とのネットワークの確立のため地方政府との共同を強化させる
*CBR委員会(地区レベル)の結成
*地域住民の啓発活動と意識の継続
*障害者自身の啓発のため自立生活の概念の普及を行い、自助グループを強化させる
*成人障害者を対象とした支援が弱い
*障害者の二一ズを取り入れる機会が不足している
*職員の質的課題(マニュアルや、外部団体の手法に忠実なため応用が効かない
*包括的な支援を行うため障害者自身の立案・計画への参加を促進する
*職員の質の向上をめざすための研修実施
*定期的なタイ国内外でCBRワークショップを行いモニタリング.評価の充実を図る
*各NGO間との連携・情報交換がない

+ノンフォーマル教育の推進(199年)により具体的に推進が開始。障害児にとっては登校に際してのアクセスの間題、学校内での移動の問題等々を抱え、統合教育参加の厳しいケースが多々ある、このような際、教育局から人材を週に一回自宅若しくは近隣の場所に派遣して教育を可能とし、試験に合格すれば通常の通学による学校教育と同様に認められる制度であり、’プロジェクト地域でも推進中

2.シリントン国立医療リハビリテーションセンター(以下 SNMRCと略す)

2−1:SNMRCの行うCBRの実施図(トップダウン方式)

公共保健省(SNMRC)
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県公共保健事務所


郡病院


地区の保健所


村落レベルヘ:全般的に医学的リハビリテーションを必要とする者を対象

2−2:現在の取り組み

@ 人材育成…CBRトレーニングコースを実施、SNMRCが対象とするのは郡レベルでの病院、保健所職員、保健事務所関係者が中心である。一回の受講は20〜25名程度であり、国家予算によって決まるが一年に一回程度で5日問(CBRコンセプト、基礎的なリハビリテーション訓練、障害児のADL指導など中心)実施

A 調査一13の州を対象として2001年から2年計画で地域の障害者とその家族の実態調査を保健所の職員を中心に行う。調査内容は医学的リハビリテーションのみでなく、教育、就労、より個人的な問題などを含め行う。(これまでは障害の予防、ケアの方法、専門的な支援が中心であった)その緕果をSNMRCで集約、分析し、モデル地区として20地区を抜粋し、CBRプロジェクトを実施する予定である。

B その他…HI,CBN(独NGO、労働社会省、教育省との連携を強化させていく予定。また各分野、情報の共有や研修会の実施などを椎進させていく予定。1995年〜CBRの国内レベルでのワークショップを隔年実施しているが、今年度3月末開催。この会議には国内レベルのNGOも含まれるがとくに、地域との結びつき(オーボートーとの連携)の重要性を伝えていく予定としている。(HIソムチャイ氏より)