CBR(地域に根ざしたリハビリテーション)におけるPRA(参加型農村評価)の採用とその意義   

第125回アジア障害者問題研究会報告
2002年1月5日
秋田大学医療技術短期大学部理学療法学科 大澤諭樹彦


*青年海外協力隊の理学療法隊員としてマラウイで活動。その後日本理学療法士協会と国際医療技術交流財団(JIMTEF)との協力による5カ年計画の最後の派遣員として、インドネシアのソロ市のCBRDTC(CBR開発訓練センター)で支援活動を行った。
*PRA(参加型農村評価)は農村開発で1980年代に発展した手法であり、最近は保健医療の分野でも使われている。開発に先立って村の外部者(専門家)がアンケートなどを用いた従来の調査方法を行うと村の見方に専門家偏倚の危険が生じるので、村人が参加する作業やワークショップを通して実施するPRAが注目されてきた。専門家はPRAを通して、村の四季など文献等からでは分からない村人の知識、経験などの情報が得られ、かつ村人自身は、自分たちで話すことで村人同士の認識をまとめ、共有し、共通概念を持つことができる。村人にとって何が問題かを再認識するチャンスとなって
いる。専門家が村人と一緒に学べる。PRAは方法でしかなく、エンパワメントが目的である。
*文化人類学のフィールド調査では長期間農村にとどまらないと結果が出ず時間を要したが、RRA(簡易農村評価)は迅速に結果にたどり着き、しかも従来の調査方法による結果との間に大差はないという利点がある。最近はPLA(参加による学習と行動)が採用され始めた。
*PRAは長期にわたる開発の導入段階で使われ、専門家によるトップダウンのアプローチではなく、村人が主体的に参加する点などCBRと共通する点が多い。PRAを用いることでCBRにおける障害者のエンパワーメント、地域住民主体型の社会開発、地域住民のneedsからなるボトムアップの活動を高められる。
*CBRDTCで行われていたPRAの実際について。CBRDTCは、役人や村長と話してCBRを実施する村を決める。ソロ市から奥に入った村では、インフラがほとんど整っていない。先ず村での障害者問題を考えてもらうために、CBRDTCがボランティアでPRAを使った研修会を開く。村長に声をかけて、興味がある人を集会所に集める。PRAでは下記の3つの手法が使われていた。それぞれの作業にだいたい同じメンバーが出席していたが、お弁当をつけたり、おやつを出すなど、続けて参加してもらえるように努めている。村人が点在して住んでいるところでは、集会所周囲の集まって来られる人
しか参加していなかった。
(1)マッピング(地図作り)−−大枠の地図を書いて、先ず障害者の住んでいる所を記していく。男女に別けて印をし、その他に保健施設、店、病院等の施設も記していく。2時間ほどの作業である。軽度の障害は分かりづらいこともあり、参加者の中であの人は障害者か否かというような議論も起きた。ファシリテーター(CBRDTCのスタッフ)は特定の人が議論の中心にならないようにチェックし、皆が参加しやすい環境になるよう心がけた。
(2)ベンダイアグラム−−障害のある人とない人のグループに別けて、社会の中での障害者の相関関係を知ることを目的とする1時間の作業。ひし形の図形で、障害者を表し、円で障害者が使用できたり、障害者を援助する組識や施設(村役場、保健所、家族、近所の人、学校、宗教団体)のそれぞれを表していた。組識や施設が障害者にとって大きな助けとなっていて、有効性が大きいと、図形も大きくなる。丸とひし形の距離が近ければ、障害者にとってその組識または施設が
利用しやすいことになる。作業は組識や施設のリストを作ることから始め、円の大きさと距離を決め、貼り付けていく。2グループの図が完成後、両者を比較し、違いを話しあう。
(3)ランキング−−障害のある人とない人との2グループに分かれ、障害者のニーズを列挙し、いくつかの問題点にまとめる。費用面からの実効性、実行する価値の有無、利益、プロジェクトへの参加の可能性の有無、時間をかけて実行する価値という、プロジェクトとしての観点から、5を最大値としてそれらに点数をつけていく。ファシリテーターは参加者の議論が展開しやすくなるように、点数化する際の大体の基準を提示していた。村人のためには文字で書かずにシンボルを使ったり、豆を置いて数を表すなどの工夫をしていた。
*村のニーズをさらに引き出すために以上の方法を1回で終わらせず、また別の方法でニーズを見ることもある。PRAは決定のためのプロセスであるが、そこで出てきたものをCBRDTCでは必ずしも直接的に決定の根拠としていなかった。ここでの結果は、その後設置されるCBR委員会によるプログラム決定の中に反映されていった。
*CBRDTCはCBR委員会の設置後に村人へ研修を行い、適正技術の移転や人材育成を促していく。機能的リハビリテーション、簡単な道具の作り方などを村人は学習していく。村の資源に限りがあるので、リファーラル(都市部への転院など)の際には寄付金を使っている。村のCBR委員会はポスターを貼ったり、募金箱を置いたり、保健センターにマニュアルを置くなど、啓発に努めている。
*CBRDTCのPRAを用いた活動について紹介した。PRAは障害者のエンパワーメントに繋がるためのひとつの方法であるといえるが、CBR分野においての有用性については十分に吟味が行われていない。今後の課題として、よりCBRに適合するようにPRAを発展させていくことが必要であろう。