アジア視覚障害者のマッサージ事情と「アジア構想」

第117回アジア障害者問題研究会
2000年4月7日
アジア構想をすすめる会事務局長/筑波大学附属育学校教諭 藤井亮輔

*5年毎に実施される調査では、盲人の数は30万5千人である。高齢化、重度化の傾向にあり、高齢者の6割は1,2級の重度者である。
*日本では盲人の職業として鍼、灸、マッサージがある。マッサージ師のうち、盲人は6割ほどだが、少なくなりつつある。大都市圏では85%が見える人で占められる。就労している盲人は約10万人で、そのうち6万人がマッサージを開業し、1万人がマッサージ師として病院で働いている。「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」に定められた、あん摩マッサージ指圧師の免許、はり師の免許、きゅう師の免許の3種の免許は、3年間教育を受けて国家試験を受けて認められる。鍼、灸では晴眼者が多い。
*1400年頃から平家物語を奏でる盲人の職業集団である、後に当道座と呼ばれる座ができ、幕府の手厚い保護の下、貧しい盲人には配当を行っていた。琵琶や歌ができない人のアルバイトとして座頭按摩が始まった。1700年代に入ると、杉山和一が惣検校として全国に50ヵ所ほどの鍼治講習新を作った。この時から盲人の按摩、鍼、灸教育が始まった。明治に入り組識は解体され、盲人は生活苦に陥ったので、板垣退助を先頭に立て、築地本願寺の支持を得て、一大運動を起こし、明治44年、今の法の前身となる中央法制(按摩術営業取締り規則)が整った。内務省令であるので、警察が試験を行ったが、盲人には晴眼者より修業年限を短くするなど、盲人保護法的性格を帯びた内容だった。昭和20年にはGHQが盲人には高い技術が必要な鍼、按摩はできないとして禁止した。盲人の運動により昭和22年に新法ができ、社会的に身分が保障された。現在の問題は、(1)カイロ、エステ等の無免許による按摩行為による侵食、(2)晴眼者の参加、(3)PT、OTが病院でのリハを取って代わることによる解雇があげられる。
*アジアでは韓国、台湾で盲人の専業とされている。日本が植民地化した時、日本式の按摩を定着させた。80年代以降日本と韓国に触発され指導者養成のニーズが出てきて、NGOによる支援が始まった。国際視覚障害者援護協会(ICB)は、30年ほど前から日本でアジア、南米、アフリカの盲人に免許を取らせて帰すというプログラムを行ってきたが、帰っても仕事がないという問題がある。90年代以降はICBに加え、ブリッジ・エーシア・ジャパンも研修を行っている。青年海外協力隊員(JOCV)は今まで17人が、主としてインドネシアに派遣されている。今年はバングラデシュへの派遣も始まった。
*韓国では慰安所と一体になっている所が多い。マッサージ師は24時間拘束されるが、月に100万円ほどの収入があるという。金大中は売春を押さえようとしたが、盲人団体が反対した。盲学校で3年間教育を受け按摩の免許を取り、その後専門コースで鍼を勉強する。法律で漢医しか鍼ができないが、盲人が細い鍼を使うのは認められる。
*インドネシアでは盲人マッサージ師が増えている。1993年にJOCVが派遣され、主に指圧を中心にリハセンターなどで教えている。同国で開催したセミナーでは、マッサージ治療院に病気になってもお金がない人々が来るので、病気の治し方に関する質問が多く出た。日本の按摩のレベルは高いので治せるという期待がある。マレーシアは、盲人マッサージ師が指導者について習い開業するという徒弟的教育が行われているので、教育と免許制度のことを考え始めた。タイでは盲人マッサージ師はいるが、法律でタイ式マッサージをするのは禁止されている。スリランカではジャーナリストを中心に盲人マッサージ師をという運動が始まっている。
*昨年初頭、政府と政府の間でマッサージの指導者を養成する公的システムを作ろうとの構想が生まれ、1年余の準備期間を経て今年4月、「アジア構想をすすめる会」が発足した。JICAが事業主体となり沖縄視覚障害者福祉協会に委託する事業で、JICAとの実務レベルの話し合いを進めている。一年間のコースで、視覚障害者にマッサージを指導する人、または指導している人を沖縄県に招き、指導者研修を行う。2003年のオープンを目指している。すでに14カ国のニーズ調査を終え、国内団体への啓発、WBU(世界盲人連合)アジア地域協議会などへの情報配布などを行っている。

資料1

アジア太平洋・視覚障害者職業自立支援構想について
趣意書

 「アジア太平洋障害者の十年」の最終年を来年に控え、この間の国際的成果を総括する各種イペントの準備が政府やNGOレペルで着々すすめられています。しかし、開発途上地域における視覚障害者についてみれぱ、未だ多くの人々が貧困と差別に瀕しており、問題解決に向けて道半ぱと言わざるを得ません。
 この状況を切り開くためには、域内の視覚障害者社会に安定した職業の確立が不可欠であること、その有力な職業がマッサージ業であるということは、今、アジア各国が共通に認識するところとなっています。なぜならぱ、この業が、視覚のハンディとはかかわりなく卓越した触察技術に依存する職業であるからです。この特性ゆえに、我が国においてマッサージ業は、視覚障害者の自立を支える職業として、世界に例を見ない発展を遂げてきたのです。
 しかし、アジアの開発途上地域では、視覚障害者にマツサージ業を普及しようとしても、その技術指導に当たる人材の絶対的不足が、等しく大きな課題となっており、いきおい、この分野の先進国である我が国に、指導者養成を求める声が年ごとに顕著になってきています。
 こうした要請に、1990年代以降、民間による草の根の支援活動が活発になり始め、多くの困難に直面しながらも着実に成果を挙げてきました。しかしながら、各国からの支援要請は多様化しつつ増え続ける傾向にあり、もはや民間の努力に依存するのみでは、周辺の期待に応えることは困難な状況となっています。
 本構想は、上記の現状を踏まえ、アジア各国・地域でマッサージに関する技能教育と業の普及に当たる指導者養成を、日本政府が主導して行うためのシステム構築を目指しており、域内における視覚障害者の職業自立と福祉の向上に大きく資するものです。折しも、平成14年に最終年を迎える「アジア太平洋障害者の十年」は、障害者の職業問題の改善を行動課題の柱に掲げています。この理念に照らしても、政府が、本事業にリーダーシッブを発揮することは、この地域における我が国の政治的、経済的地位にふさわしい国際貢献であると考えます。
 別紙、r事業計画の概要」を参照していただき、本構想の趣旨にご理解をたまわりますようお願い申し上げます。

          アジア太平洋・視覚障害者職業自立支援構想をすすめる会
                  会長   村谷昌弘

事業計画の概要

1.事業の名称アジア太平洋・視覚障害者マッサージ業自立支援事業

2.事業の目的本会は、アジア太平洋各国・地域において、マッサージに関する技能教育と業の普及に当たる指導者を養成することにより、域内における視覚障害者の職業自立の支援と福祉の向上に資する。

3.享業の骨子アジア太平洋地域において、視覚障害者更生訓練施般等でマッサージの教育もしくは業に関わる実務経験を有する人材を研修員として日本に招き、二国問協約に基づく指導者研修を行う。

4、事業の開始目標年度    2003牛4月

5.事業主体
国際協カ享業団沖縄国際センターが行う新規の委託事業とする。

6.運営組織(侯補)
杜会福祉法人沖縄県視覚障害者福祉協会

7.期待される成果
(1)支援国におけるマッサージに関する視覚障害者教育の振興と教育水準の標準化
(2)支援国における視覚障害者の職業的、杜会的白立の促進
(3)支援国におけるマツサージの公的資格制度確立に向けた気運の醸成
(4)域内の視覚障害者を対象とした第二国およぴ第三国研修の推進

8.支援対象の国およぴ地域
公的な視覚障害者更生訓練施設等でマッサージに関する技術指導をすでに行っているか、今後、行うことを予定レている国・地域であって、本事業による上記の成果が期待される国・地域。

9,研修員の資格要件
(1)下記のアからウの要件をすぺて充たす者。
 ア、視覚障害者の更生訓練施設等においてマッサージに関する教育もしくは業務に一定期間従事した経験を有する者で、研修を終えて帰国した後、指導者として視覚障害マッサージ師の育成に貢献する熱意のある者。
イ.所属機関長ならぴに派遣国政府の推薦を受けた者。
ウ、応募時点で年齢が20歳以上40歳朱満の者。
(2)目本の盲学校等の理療科又は保健理療科を卒業し、あん摩マツサージ指圧師免許を取得している者で、卒業掌校長およぴ自国政府の推薦を受けた者。

10.研修員の年間定員    10名程度

11.研修内容
(1)目本語研修(日本語検定3級-4級程度)
(2)日常生活適応訓練(歩行訓練、日本の文化・習慎等)
(3)マツサージに関する指導者研修(本研修)

12.研修期間
(1)日本語研修およぴ目常生活適応訓練 3-6ヵ月
(2)本研修              1年

13,カリキュラム(本研修)について
(1)総時数:800-900時間程度
(2)研修内容
ア.講義科目:基礎医学(解剖学、生理学、病理学、衛生学)、視覚障害福祉
イ.実技科目:あん摩実技、マツサージ実技、指圧実技、その他の手技療法

14.講師障の体制
(1)沖縄県内を中心に退職理療科教員(盲学校教員免許状取得者)を募る。
(2)全国のあん摩マッサージ指圧師養成学校の教員、あん摩マッサージ指圧師免許取得者を対象に希望者を募り、講師陣の人材バンクを組織する。

15、使用言語
授業及ぴ教科書等、研修で用いる言語については、講師陣の実体と要望、東洋医学専門用語の翻訳の問題等を勘案し、基本的には日本語で行うことを考えている。しかし、アジア各国からは英語、中国語を要望する声も強く、通訳の確保が可能かどうかを含めて、今後の検討していく。

日本がマヅサージ技術を支援する理由

1.マッサージは触覚に優れた視覚障害者にとって道した職業技術であること。
2.杜会貢献性の高いマッサージ業ほ視覚障杳者の自立手段として有用であること。
3.開発途上国を中心に日本への支握二一ズが高いこと。
4.我が国は視覚障書者に対するマッサージ技術の支援力量を豊富に備えていること。
5.我が国はアジアの視覚障害者に対するマッサージ技術支援の経験を善積していること。

沖縄県で本事業を計画する理由

1.沖縄はアジアのほぽ中央に位置しアクセシビリティーに恵まれていること。
2.沖縄の気侯は熟帯・亜熱帯地城からくる研修生の点宇学習や生活環境に適していること。
3.沖縄県は学術交流拠点の形成を目指しており国際交流に積極的であること。
4.沖績県内の鍼灸マヅサージ業・教育界の地域振興が期待されること。
5.アジアの障害者指導者青成事業が沖縄で行われている実積を踏まえたこと。

以上

資料2

アジア太平洋・視覚障害者職業自立支握構想をすすめる会
規約

(名称)
第1条 本会は、アジア太平洋・視覚障害者職業自立支援構想をすすめる会(略称、アジア構想をすすめる会)、英語名を、Committee for The Asian-Pacific the Project, Promoting Independent Living of the Blind and Visual1y Impaired (CAP=キヤツプ)と称する。

(事務局の所在地)
第2条 本会に本部事務局およぴ現地享事務局を置く。
 1. 本部事務局  東京都文京区目白台3-27-6 筑波大学付属盲学校内
 2. 現地事務局  沖縄県南風原町兼城473   沖縄県立沖縄盲挙校内

(目的)
第3条 本会は、アジア太平洋各国・地域において、マッサージに関する技能教育と業の普及に当たる指導者を養成することにより、域内における視覚障害者の職業自立の支援と福祉の向上に資する。

(事業)
第4条 本会は、前条の目的を達成するため次の事業を行う。
 1. アジア太平洋地域における視覚障害者のマッサージ業・教育に関する調査
 2. 二国間協約によるマッサージ技能指導者研修システムの構築に向けた取り組み
 3. 前号の研修に関わる教育課程、教科書・教材、講師陣の供給体制及ぴ研修員の目常生活のサポート体制等に関する検討
 4. その他、本会の目的を達成するための事業

(組織及び役員)
第5条 本会は、前条の事業の趣旨に賛同する個人会員ならぴに団体会員をもって構成し、次に掲げる各号により組織する。
1. 顧問
2. 相談役
3. 役員
4. 会計監査
5. 専門委員
6. 協力会員・協力団体(会員のうち前号に掲げる以外の会員をいう)
二 本会に次の各号に掲げる役員を置く。
 1. 会長    1名
 2. 副会長   4名
 3. 事務局長  本部及ぴ現地事務局に各1名
 4. 享務局次長 本部及ぴ現地事務局に各1名
 5. 会計    1名
三 会畏及ぴ会計監査は、幹事会において推薦し総会で選出する。
四 副会長、事務局長、事務局次長及ぴ会計は幹事会が推薦し会長が任免する。
五 顧問及ぴ相談役は、幹事会が推薦し会長が委嘱する。

(顧問及ぴ相談役)
第6条 顧問は本会の事業遂行に必要な重要事項につき会長の諮問に応ずる。相談役は目常の事業遂行に関わる事項につき会長の求めに応じ意見を述ぺる。

(会畏およぴ副会長)
第7条 会長は本会を代表し、会務を統括する。
 二 副会長は会長を補佐し、会長に事故あるときはその職務を代行する。

(事務局長及び事務局次長)
第8条 本部及ぴ現地事務局に事務局長、事務局次長及ぴ若干名の事務局員を置く。
 二 本部事務局長は本会の事務を統括し、現地事務局長は現地の事務を処理する。
 三 事務局次長は事務局長を補佐するとともに、事務局長に事故あるときは、その職務を代行する。

(会計)
第9条 会計は本会の会計事務を処理する。

(会計監査)
第10条 会計監査は2名とし、本会の財務を監査する。

(専門委員及ぴ専門委員会)
第11条 会長は、第4条に掲げる事業を行うため、幹事会の推薦により若干名の専門委員を委嘱し、委員会を組織する。
 二 専門委員会の下に、業務を分掌するための班を若干設け、委員はいずれかの班に所属する。
 三 専門委員会に委員長を置き各班の業務を統括する。
 四 各班に班長を置き、班の業務を代表する。
五 専門委員長、班長は、幹事会において推薦し会長が委嘱する。

(会議)
第12条 本会の会議は、総会、会長副会長会議、幹事会、専門委員会とする。
 二 総会は会長が招集し、本会の事業について一般的事項を協議する。
 三 会畏副会長会議は、会長、副会長及ぴ事務局長で構成し、本会の事業の基本的事項を協議する。本会議には必要に応じて顧問、相談役の出席を求めることができる。
 四 幹事会は役員ならびに専門委員長で構成し、会長副会長会議から付託された童要事項を協議・決定する。本会議には必要に応じて顧間、相談役の出席を求めることができる。
 五 専門委員会は事務局長、事務局次長、専門委員長、班長で構成し、幹事会から付託された事項に関して協議・立案する。

(運営費及ぴ年会費)
第13条 本会の運営費は会費及ぴ寄付金をもって充てる。
 二 年会費は次の各号による。
 1. 個人会員  一口 三千円
 2. 団体会員  一口 一万円

(会計年度)
第14条 本会の会計年度は、毎年4月1目から翌年3月31目までの期間とする。

付 則
この規約は、平成13年4月1目から施行する。