ネパールの視覚障害者への支援とCBR

1 ネパールの視覚障害者のCBRと教育支援

2 ネパール盲人福祉協会(NAWB)の哲学とプログラム


1 ネパールの視覚障害者のCBRと教育支援

第110回アジア障害者問題研究会報告
2000年9月9日
東京ヘレンケラ−協会・福山博


*1989年を第1回とし、以降11回ネパールを訪問している。
*首都カトマンズは南大島程の緯度にあり、ネパールは北海道の約2倍の大きさで、サンプル調査による人口は2千万前後である。中国とインドだけが国境を接する国であるので、大国の間に挟まれていることになる。世界で唯一男性より女性の寿命が短い。1998年のGNP比では、バングラデシュより貧しい。伝統的文化が残っていて相互の助け合いがあるので、貧しさを感じないですんでいる。
*東京へレンケラ−協会(THKA)は1985年前から調査を行い、85年にCBRと統合教育支援を開始した。
*カウンターパートのNAWB(ネパール盲人福祉協会)は川沿いの寺院の敷地の古びた建物の中にあったが、建替えがされ、中には国内唯一ヵ所の教科書の点字印刷所がある。建物、印刷機、職員の訓練はTHKAの支援による。
*ナラヤニ県バラ郡CBRは1989年に始まり、今年支援を終了し地元で運営をつづけることになった。郡は東京23区の半分の広さで、105の村に6万強の世帯、409,141人が住んでいる。ネパール人は宗教上の名前を初めとしていくつも名前をもっていたり、女性は早く辛い仕事から引退したいので年齢を高く言ったりする中、調査をし住民を把握した。中途失明者が多く、野菜栽培を続けたり、水牛飼育をする援助をしている。水牛一頭がいれば、平均より少し上の生活ができる。
*外務省の補助金でバラCBRセンターを建設した。最盛期の27人のスタッフのうち20人には他の職を斡旋し、協会はCBRへの支援を打きり自主運営することに決まった。眼科医が少ないので診察、投薬、処置ができる国の制度で認められた眼科助手を4人育て、2名は眼科病院に送った。今は2名の眼科助手を含めた7人がいる。日本の24時間テレビとアジア眼科医療協力会(AOCA)が県全体を対象に支援している。同センターにはケディア眼科病院等から週1回眼科医が来る。また宿泊研修施設も併設されており、AOCAがアイキャンプを開き、若年性が多い白内障の手術などをする。
*センターでは失明予防の必要を感じてビタミンAの啓発活動と大量の配付をしてきたが、5年前から政府のプログラムとなったので、今は中止している。
*ローンの希望者には訓練を条件としているので、CBRのサービス利用者は801名と多い。ローンで竹細工、農業、雑貨店等を始めるが、水牛を持っていれば乳を絞って平均より少し上の生活ができる。
*ヨーロッパのNGOが設立した盲学校が一校あるのみで、国はリソースルームにリソースティーチャーを配備する方法での統合教育を原則としている。1−5年までは無償で、6年以上は運営費等を徴収される。5年ほど前に初等5年、中等3年、高等2年の10年制から5+3+4の12年制に移行の途中なので、両方が混在している。支援開始当時は国立トリブバン大学政治学科講師として盲人の先生が一人だけいたが、今は140人になっている。
*CBRと統合教育は結びついている。協会は通学性1校、寮制4校の校舎、井戸や水道、電気、50人に一人の教師の経費を支援している。教師の技量から丸暗記を強要する詰め込み教育が行われているので、視覚障害児に有利であり、成績は良い。

資料

1 ネパール             

 南アジアの内陸国で、ヒマラヤ山脈中部および東部に位置する立憲君主国。北は中国のシーツァン自治区(チベット自治区)と接し、それ以外はインドと接する。正式国名はネパール王国(Kingdom of Nepal)。総面積は14万797km2。人口は2280万人(1998年推計)。カトマンズが首都で、最大の都市。
 ネパールは世界有数の山国で、しかも内陸国という立地条件から、外国との交流には大きな制約がある。そのため、港を利用させてもらうインド、中国両大国とは良好な関係を維持することがもとめられる。

国土と資源:山岳という自然の障壁がネパールを世界から孤立させ、天然資源の開発をおくらせる原因になっている。世界の高峰ベスト10のうち、最高峰チョモランマ(エベレスト山、8848m)をふくむ8峰までが国内または国境上にある。

地形:国土は、南から北にむかうほど高度をまし、東西方向に並行する山脈によって3つの地形区にわかれる。中国に接したいちばん北は、平均標高が4500mをこえるヒマラヤ山脈である。中間の地形区は標高2500m前後で、ヒマラヤの前山をなすマハーバーラト山脈などがはしる。そして、もっとも南のタライ地域は低く平坦なガンガー平原の北部にあたり、平野・湿地・森林が分布する。タライの堆積(たいせき)土壌は肥沃(ひよく)で、中間山地・ヒマラヤ地域のやせた土とは対照的である。タライ以外で唯一、肥沃で平坦な土地は、国のほぼ中央に位置するカトマンズ盆地にかぎられる。
 国内をながれる河川は、ほぼ北から南の方向にながれ、最後はすべてガンガー(ガンジス川)に合流する。主要な水系として、西から東にカルナリ、ナラヤニ、コシがある。きわだって大きな湖沼はない。

気候:ネパールでは、高度が気候の決定要因になっている。標高の高い山地では年間を通じて低温で、もっとも高い山岳地帯は一年じゅう雪におおわれている。一方、南部のタライ地域や、首都カトマンズのある中央部では、夏は高温で多雨、冬はすずしい乾季になる。気温がもっとも高くなるのは、雨季前の春の終わりと、真夏である。

植生と動物:植生と動物相も、高度によって変化する。タライ地域では、農耕のための開拓がはじまっているものの、広葉樹や竹の原生林がまだのこされている。山地の低部では、多くの花にまじってマツやカシがみられる。標高がますと、モミや低木を中心とした植生に変化し、標高3600mをこえると、ごくかぎられた小さな植物しかみられなくなる。
タライの湿地にはトラ、ヒョウ、シカ、ゾウなどの野生動物が、山地にはヤギ、ヒツジ、オオカミがみられる。ヒマラヤ高地では、雪男の存在が信じられている。

天然資源:きびしい地形のため開発がおくれ、ネパールの地下資源はまだ完全には探査されていない。しかし、雲母、銅、鉄鉱石、黄土、褐炭およびコバルトの存在が知られている。

住民:住民は2つのグループから構成されている。多数派はかつて南からこの地にはいってきたインド系で、もうひとつは北からはいってきたチベット系である。両者の混血もかなり多い。チベット系の民族には、ヒマラヤ登山のガイドや運搬役で知られるシェルパや、兵士として有名なグルンなどがいる。さまざまな民族からなる出稼ぎのグルカ兵は、イギリス軍やインド軍で活躍し、国の外貨獲得の有力な手段のひとつとなっている。
 1998年国連人口局による総人口は2280万人で、人口密度は1km2当たり156人である。人口が集中しているのはカトマンズ盆地と南部のタライ地域で、北部の山地には多くの人口希薄地域がある。

障害者:国際障害者年(IYDP)ネパール委員会が1981年に実施したサンプル調査によると、ネパールの総人口に占める障害者の割合は3.03%で、そのうちに占める視覚障害者の比率は25%、そしてさらに就学適齢期(5〜15歳)の盲児の比率はこのうちの18%とされた。人口は1998年現在2280万人なので、障害者数は人口に完全に比例すると仮定すれば1998年現在の障害者数は、752,000人、視覚障害者数は188,000人、就学児童数は33,000人と推定される。

2 ネパール盲人福祉協会 統合教育校の児童と教師の明細: 2000614日現在

開発地域

No

学校名/所在地

担当教員

盲児
合計児童数 事業開始年

支援機関
小学部 中・高等部 合計
Koshi Sunsari 1 * Purbanchal Gyan Chakshu Vidyalaya, Dharan 8 1 9 48 28 76 2034 NAWB/SEC
2 Saraswati Secondary School, Duhabi - - - 1 - 1 2050 NAWB/Dharan CBR
3 Sharada Primary School, Chimariya - - - 1 - 1 2050 NAWB/Dharan CBR
4 Sharad Secondary School, Inaruwa - - - 1 - 1 2050 NAWB/Dharan CBR
Sagramatha Siraha 5 Pashupati Sec. School, Lahan 2 1 3 9 - 9 2043 NAWB/CBM/SEC
6 Rajai Janak Lal Sec. School Balahi 1 - 1 2 - 2 2048 NAWB/SCEH
Eastern Mechi Jhapa 7 Pathariya Sec. School, Pathriya - - - 2 - 2 2050 NAWB/Dharan CBR
8 Pashupati Primary School, Pathmari - - - 1 - 1 2050 NAWB/Dharan CBR
9 Mahendra Sec. School, Amarmani - - - - 1 1 2050 NAWB/Dharan CBR
10 Kalikasthan Sec. School, Shanischare - - - 1 - 1 2050 NAWB/Dharan CBR
Morang 11 Gyankunja Primary School, Biratnagar - - - - 1 1 2050 NAWB/Dharan CBR
12 Bani Sec. School, Sidraha - - - 1 - 1 2050 NAWB/Dharan CBR
Janakpur Mahottary 13 Shree Sec. School, Bashbhitti 1 1 2 8 - 8 2043 NAWB/CBM/SEC
Narayani Rautahat 14 Juddha Sec. School, Gaur 2 1 3 10 6 16 2049 NAWB /THKA
Bara 15 Nepal Rastriya Sec. School, Dumarwana 2 1 3 15 5 20 (1993) NAWB/THKA
16 Anchit Sec. School, Batara 2 - 2 2 1 3 2047
(1991)
NAWB/THKA
Central Bagmati Kavre 17 Sanjiwani Sec. School, Dhulikhel 1 1 2 15 10 25 2043 NAWB/CBM/SWC
18 Sarba Mangala Sec. School, Panchkhal 1 1 2 4 4 8 2049 NAWB/HKI
Kathmandu 19 Laboratory Sec. School, Kirtipur 1 2 3 15 13 28 2021 NAWB/SEC
20 Nagarjun Thulagaun Primary School 1 - 1 2 - 2 2049 NAWB/CBM/SEC
Bhaktapur 21 Adarsha Sec. School, Thimi 1 1 2 7 2 9 2043 NAWB/CBM/SEC
Lalitpur 22 Numuna Machindra Sec. School, Lalitpur 2 2 4 20 12 32 2043 NAWB/CBM/SEC
Gandaki Kaski 23 Amar Singh Sec. School, Pokhara 2 1 3 17 12 29 2039
(1981)
NAWB/SEC
Gorakha 24 Amarjyoti Sec. School, Luintel 1 1 2 6 9 15 2052
(1995)
NAWB/THKA
Western Lumbani Rupandehi 25 Santi Sec. School, Manigram 2 1 3 9 8 17 2045 NAWB/THKA
Palpa 26 Damkada Sec. School, Madanpokhara 1 1 2 7 10 17 2052
(1995)
NAWB/ICFON
Dhaulagiri Baglung 27 Janata Sec. School, Balewa 2 1 3 14 13 27 2045 NAWB/SEC/ICFON
Karnali Jumla 28 Bhairab Sec. School, Narakot 1 1 2 4 12 16 2052
(1995)
NAWB/ICFON
Mid Western Rapti Dang 29 Gorakshanath Lower Sec. School, Chaughera 1 - 1 4 6 10 2050 NAWB/SEC
Bhery Bankey 30 Mangal Prasad Sec. School, Nepalganj 1 1 2 6 6 12 2043 NAWB/CBM/SEC
Seti Kailali 31 Panchodaya Sec. School, Dhangadi 3 1 4 20 8 28 2039
(1981)
NAWB/SEC
Far Western 32 Navajeevan Primary School - - - 1 1 2 2054 NAWB/DAB
33 Saraswati L.Sec. School - - - - 1 1 2054 NAWB/DAB
Total 39 20 59 253 169 422

                    * Segregated

6月14 日までのCBRプログラムのサービス受領者の詳細          ネパール盲人福祉協会
.

開始時

リハビリテーション

治療

訓練セミナーと
啓発プログラム

支援団体
全盲・弱視者数 O & M, DLS Counseling 所得創出のためのローン 就学 目の検査と治療 ビタミンA の配布 白内障
手術
啓発 各種訓練とセミナー
1. Kathmandu Valley CBR (Kathmandu, Lalitpur, Bhaktapur) 2046 707 555 64 23 22,406 2,305 297 122,000 135 CBM, Germany
2. Kavre CBR 2044 524 436 55 17 6,350 6,425 71 9,000 270 HKI, USA
3. Bara CBR 2046 801 578 173 25 61,637 102,226 1,836 6,790 80 THKA, Japan
4 Dang CBR 2045 175 150 30 12 713 141 43 875 9 SAP, Nepal
5. Rautahat CBR 2043 270 250 16 4 4,624 1,333 315 1,350 9 WBU/SWC
6. Purvanchal Community Service Center (Sunsari, Morang, Jhapa) 2050 1,349 400 127 34 28 - - 6,170 135 CBM, Germany
7. Kaski CBR 2053 327 240 45 29 3,517 431 79 9,640 41 VISIO-
Netherland
8 Kailalee CBR 2054 550 291 44 17 2,559 100 283 11,290 29 DAB, Denmark
9 Kirtipur CBR 2044 125 125

あらゆる種類の障害者を対象
UNICEF, Nepal

Total
4,828 3,025 554 161 101,834 112,961 2,924 167,115 708
CBM - Christoffel Blinden Mission, Germany.
HKI - Helen Keller International, USA.
THKA - Tokyo Helen Keller Association, Japan.
SAP - South Asia Partnership
WBU - World Blind Union
SWC - Social Welfare Council
VISIO - National Foundation for the Visually Impaired and Blind, Netherland.
ICFON - International Council for the Friends of Nepal, Netherland.
SEC - Special Education Council
DAB - Danish Association of the Blind
NYOF - Nepalese Youth Opportunity Foundation




 ネパール盲人福祉協会(NAWB)の哲学とプログラム

第116回アジア障害者問題研究会報告
2000年3月3日
ネパール盲人福祉協会上級プログラム・オフィサー ホーム・ナット・アルヤール

*ネパールでは障害は視覚、肢体、知的、聴覚の4種に別けられ、10年毎に人口調査があるが、障害者人口の調査はない。1981年の国際障害者年に、国内の75郡の内の6郡で実施された抽出調査に基づいて障害者数が算定されている。CBRを実施している経験から言うと、盲人だけで人口の1%になるので、発表数は実際より少ないと思う。
*ネパール盲人福祉協会(NAWB)は1985年より盲人の社会への統合を目的に活動を開始し、私は1989年に勤め始めた。22人のスタッフがいる中央事務所の他に7ヵ所の支部があるので、計111人が働く。CBRを実施する郡に作った地域調整委員会(local coordination committee)が数年もすると知識も増え郡支部となっている。リハビリテーションの技術を得た人が出てきた場所が郡支部設置を許可されることもある。
*統合教育を進めるために、普通校での盲学生が見える生徒と勉強できるように学校にホステルを設置し、食事や衣服を援助している。自宅から通学している学生もいる。盲学生は15人ほどに2人リソース教師がつき、校内にあるリソース室でリソース教師から点字を習ってから一般のクラスに行くことになる。8年前には国立トリブバン大学にリソース教師養成コースがありNAWBも協力していたが中止になったので、NAWBで独自に、必要な学校の先生を訓練し始めた。2000年6月現在422人いるリソース教師は、例えば7時間教える内リソース室にいるのは3時間という具合に、一般のクラスも教え、他の教師と給与も同じである。特に視覚障害の女子の教育率は低い。一般に女子は家族の中でも平等に扱われず教育を受けられたとしても、例えば男の子には良い学校を選ぶなどの差別がある。盲人の教師はいるが、リソース教師には訓練を受ければなれるのに盲人はいない。
*統合教育開始のために、まず郡に行って学校を見つけ、スポンサーを探し、ホステルを建設し、教師を訓練する。訓練にあたり、リソース教師となると10−4時まで教え、さらに働かねばならないことを伝える。訓練はカトマンズで行われる。視覚障害児が入学すると普通1年間リソース室で点字を習い、点字教科書をもらって一般のクラスで学ぶ。点字の学習に2年かかる生徒もいる。フォローアップとして、クラスの内容が理解できないとリソース室に戻って聞ける。
*CBRに力を入れ、資金に限りがあるので12郡でのみであるが実施している。盲人が住んでいる地域で何ができるか、どんなものが作れるか考える。先ずスタッフを募集し、例えばポカラ郡は11の地域に別れるので11人のスタッフを集めて各々を割り振り、訓練をする。ネパールでは地域ごとに話す言葉が異なるので、スタッフにはそこの言葉がしゃべれる人を充てる。地域の家を一軒づつ訪ねて調査し、視覚障害者がいれば近くの病院で検査してもらう。検査の費用が払えなければ、援助する。薬や手術で症状が治らなければ、CBRで支援する。1−5歳の子どもが視覚障害の場合には、家族がどうやって育てるのか教える。6−14歳は、近くの学校、なければホステルへの手続きをとる。14歳以上の盲人に対しては、社会の神の行いと見る障害者観や家族関係を中心とするカウンセリング、その後歩行訓練、職業訓練を行う。子どもに障害があるのを知られたくない人もいるので、悪い行いで障害者となったのではないとも話す。家族が盲人を一員として受け入れるのを大切にしたいので、仕事を分担させるように家族に話す。そのために、水牛、鶏、牛を飼うことは大切であり、購入する費用がなければ援助する。父親は水牛の移動、母親はえさの草刈り、子どもは糞で何かを作り、おじいさんは水をやるというように、家族皆で手分けして協力し、乳を売ることができる。また、外出は危険であると思われているので、白杖の使い方を教える。15−45歳の人にはお金を貸して、動物を飼う訓練をしている。稼げるようになると、社会に受け入れられる。45歳以上でも体が動けば飼育を進め、動かなければ歩行訓練のみをする。
*政府に代わって点字教科書を製作している。私立校はほとんど英語の教科書だが、政府の学校は全国で同じ教科書を使用している。せっかく点字教科書を作っても政府が教科書を換えてしまう。大学レベルの10年生以上の学生に奨学金も授与している。