タイのCBR−訪問調査報告

第109回アジア障害者問題研究会報告
2000年8月5日
タイ開発問題専門家・斎藤百合子


*主にタイの女性問題に関わり、ここ十年ほどタイで仕事をしている。
*1999年3月にJICAの依頼で4ヵ所のCBRプロジェクトを対象に調査をおこなった。
1)カンチャナブリ県ラオクワン郡ーバンコクに一番近いが、ユーカリ、タピオカ、メイズ等の換金作物のみが植えられ、とても貧しい。東北から移住した貧しい住民が多く横のつながりつまり助け合いの精神に欠けるが、新規のことができる利点があった。赴任した公共福祉局職員が障害者が多いのに驚き、先ず、生まれた時からのCPでうまく歩けなかった子供に歩行訓練と総合教育、崩壊した米倉の下敷きで歩けなくなり夫が出ていった40代の女性にリハビリ、出生届がでていない先天的障害の中年男性の登録と焼き物の仕事をする融資、を行った。障害者の変化をみて喜んだ住民は勉強会や訓練を実施し、障害者が生まれると諦らめていた村が活気づいた。他の女性障害者は郡の農村女性対象の縫製工場で働きその収入から寺で御布施ができるようになり喜んでいた。他の人も貧しいので、障害者への支援を他の人にも広げるようになった。元々あった助け合いの精神で皆が気持ちよくなっているのはいいことだと実施してきて、外国からの情報で始めてCBRをやっているのだと知った。
2)ノンブアランブー県シーブンルアン郡ー10年前障害児財団〈FHC〉が郡病院でのリハビリから始めたCBRが3年前に住民に引き渡された。障害者、家族、病院、リハビリ施設、学校、寺、警察がCBR委員会に属する。地域住民が参加しているならと、寺は資金集めを担当し、トートパーパーという仏教行事の収益全てを寄付している。警察は交通事故で病院に搬送されるまでの体制や、事故に会わない方法など障害予防の面で係わっている。CBRは村おこしに使われ、村はこの面で他より秀でている誇りにしている。
3)ナコンシタマラート県ムアン郡ー県庁所在地ゆえ、県立や郡立病院があり、南部の教育の中心ともなっている。FHCがそれら既存の施設をつなげて2年前に始めた。一晩中でも上演されるナンタルン(水牛の皮を使う影絵芝居)で障害について教え、好評である。水草で編んだバッグやコースターは品質が良い。
4)チェンマイ県マッケンリハビリテーションセンターー義足も作れる民間の大病院を中心とし、IBR(施設基盤のリハビリ)に近い。勉強したCBRの知識を基に、CBRワーカーを募集、訓練した。床擦れの完治、車椅子の人の宝くじ売りの開始の段階で個人との関わりが終了され、社会参加の観点がない。
*障害者団体のリーダーは、助け合いを必要とする島の多いフィリピンやインドネシアに比べて、タイではどこからも一日中でバンコクに来られるのでCBRは育ちにくいと言う。しかし交通費も出せないような貧困地域もあり、CBRの素地はあると思う。
*1)や2)のようなコミュニティ・ワークが熟成した所ではCBRがうまく行っている。熟成には時間がかかる。2)では貧困対策事業などで障害者の優先順位が高かった。地方農村部の成人障害者は就学の経験がない人が多く、計算も知らない、農業の基礎知識もないなどの理由で、融資の焦げ付きが多い。豚を飼う、鶏を飼う、米を作るなど農業分野の就業を希望する障害者は多い。農協の規則で融資を受けられるのは障害者でない人との条項がある。タイでは障害者運動が盛んなので、条例から上記条項は外されるだろう。
*CBRでの障害者はまだ元気がなかった。障害者団体は彼らと連携して、モデルを提供して欲しい。
*知的障害の女性が村の人にレイプされ、CBRワーカーとの話し合いの結果避妊手術をされ、彼女の尊厳は無視された。障害者団体の長は女性障害者は教師、僧、親戚にレイプされる割合が多いと言う。必要なのは、先ず村のレベルで女性障害者へのレイプをちゃんと犯罪として位置づけ、女性の人権意識を向上することである。
*地方の病院は、障害者登録した人の医療費が免除されることを知らず、保健省が発行する障害者登録を要求する。CBRワーカーには制度を利用する能力が必要である。
*CBRはある程度設備が整った病院がある郡を中心に組織されているが、それでは広すぎる。村程度の広がりでは小回りが利き、村の人々の参加意識が芽生えるはずである。