07ハノイ障害関連団体訪問報告


東京大学大学院医学系研究科国際地域保健学教室修士課程
                          高橋 競

 2007年7〜9月はAMDAのインターンとして、2008年2〜3月は研究の事前調査のためハノイに滞在しました。いくつかの障害関連団体を訪問し、代表の方々にインタビューすることができましたので、簡単に報告します。

1. DP Hanoi (Hanoi Disabled People Association)
      @ Bright Future Group
      A The Hope Club
      B "Friends and Me" Group
      C The Club of Students with Disabilities in the University of Business Administration
      D Hanoi Club of Disabled Students
      E The Club "Singing War Invalids"
      F Group "Peer Songs"
      G Culture of War Invalids and War Veterans
      H Hanoi Green Dreams Club
      I Hold the Future
2. NCCD (National Coordinating Committee on Disability)
3. 国内組織
      @ IDEA (Inclusive Development Action)
      A Vietnam Sports Association for the Disabled
4. 国際組織
      @ USAID
      A CRS (Catholic Relief Services)
      B Handicap International

1. DP Hanoi (Hanoi Disabled People Association)

 Bright Futureという障害当事者団体が中心となり、2006年に設立された。設立当初のメンバーは約700人。現在は、Bright Futureや他の障害当事者団体、親の会などを含めた22団体、約1,000人のメンバーから構成されている。ハノイには14の区があるが、それぞれの区に住む障害者がアクセスしやすいように、1区に1つDP Hanoiのブランチをつくる計画がある。ハノイにいる約28,000人(?)の障害者をすべてカバーしたいと考えている。
 現在、ハノイ以外の9つの省で、DP HanoiをモデルとしたDP〜の設立が準備されており、DP Vietnam設立へ向け努力が続けられている。

*DP Hanoiの活動
@組織の発展(ハノイの障害者すべてをカバーしたい)
A障害関係の文書作成やまとめ、広報活動
B職業・マネージメントスキル向上のためのトレーニングやワークショップの開催
C祝日やスポーツイベントへの障害者参加を促進
Dアクセシビリティ改善への働きかけ、など

*ベトナムの障害者について(代表へのインタビューから)
 2001年ハノイで開催されたアジア太平洋の国際会議・キャンペーンを機に、障害者を取り巻く状況が改善しつつある。NCCDが設立され、障害当事者団体も増えている。空港などのインフラのアクセシビリティが改善したり、障害者へのITトレーニングやアクセシブルソフトウェア開発のコンペティションが開催されたり、障害者と地域を取り巻く状況は日々変化している。それでも、雇用や公共交通機関のアクセシビリティなど、まだまだ課題は多い。

@ Bright Future Group
 1998年、ハノイ総合大学の卒業生だった Mr. Vu Manh Hung と Ms. Duong Thi Van (現在、二人ともDP Hanoiの代表)を中心に設立された。現在の会員は身体障害者30名で、年齢は30〜40歳代。3分の2は初期メンバー。他のDPOを助けることを主な目的としており、メンバーのほとんどが大卒である。不定期でミーティングが行われる。Bright Future のメンバーだった人が、現在は他団体の中心になったりしている。

A The Hope Club
 1997年5月5日設立。移動に困難のある身体障害者62名が所属し、年齢は22歳から64歳と幅広い。雨具づくり・洋裁・デザイン、音楽、3輪バイクづくり(すでに20台をつくった)、スポーツなどの活動が、主にメンバーの自宅において行われている。政府からの応援はあるが経済的支援はなく、メンバーの私費により運営されている。

B "Friends and Me" Group
 2002年7月14日設立。メンバー間の交流を目的としたミーティングが、一月に一度、メンバーの自宅で行われている。メンバーは身体障害者33名で、年齢は30歳から35歳。店や会社で働いている人や、3輪バイクで荷物を運ぶ仕事をする人もいる。グループに参加することで、いろいろな情報が得られ、社会とのつながりを感じることにより、自分に自信が持てるようになるメンバーも多い。経済支援はとくになく、メンバーからの会費により運営されている。

C The Club of Students with Disabilities in the University of Business Administration
 3年前、ある教師(非障害者)により設立された。大学の許可を得たクラブで、大学からグループに月100,000VND、メンバー一人につき月10,000VNDの支援金が出ている。メンバーは、大学生12名と卒業して仕事をしている4〜5名で、年齢は20歳から26歳。全員、身体障害がある。新入生のクラスに行き、パンフレットやビラを配ったり、大学内にある障害者のための掲示板に広告をのせたりすることで新メンバーを募集する。活動は、月に一度のミーティングや勉強の助け合い、イベントへの参加など。卒業生は忙しくなかなか参加できないが、現在の代表がミーティングの内容などを逐一報告している。クラブに参加することで、助け合うことの大切さに気づいたり、自分に自信がもてたりする。

D Hanoi Club of Disabled Students
 2001年、障害のある学生が勉強を助け合ったり、生活や仕事における悩みを分かち合ったりすることを目的に設立された。メンバーは50名で、年齢は20代。大学生が中心で、ほとんどが身体障害者だが、視覚障害者や非障害者もいる。初期メンバーは、仕事などが忙しく今はあまり参加していないが、成長していったロールモデルとなっている。月に一度、定例のミーティングを行う。仕事の情報交換、保険会社からの奨学金紹介のほか、他の団体と会議したり、孤児やベテランを励ます活動やピクニックをしたりすることもある。メンバーの募集は、大学や知り合いを通して行う。まだ若く経験不足ではあるが、学生を含めた障害をもつ若者全体のための情報センターにすることを目標にしている。

E The Club "Singing War Invalids"
 1997年、障害のある退役軍人が楽しく活動することを目的に、政府の提案により設立された。30名いるメンバーの年齢は50歳以上。現在のメンバーには非障害者が多く、身体障害もつメンバーは5名程度。週に一度、歌や話し合いなどの活動が、決まった場所で行われる。

F Group "Peer Songs"
 ベトナム戦争の終わった1975年頃から、障害のある退役軍人が励ましあうグループがあった。1998年、戦時によく使われた言葉であるDong Dai(内側の助け合いという意味)という名前がグループにつき、翌年正式に設立された。精神的支え合いにより不安を減らすことをグループの目的としている。設立時のメンバーは20名、現在は50〜60名。身体障害者が多いが、視覚障害や聴覚障害のある人もいる。メンバーの障害の原因は約70%が戦争、その他は洪水など。年齢は25歳から50歳くらい。全員が集まるのは3ヶ月に一度程度だが、何人かで行われる歌の練習は、メンバーの自宅で週一度行われている。政府や支援者からの経済支援により、激戦地だった中部でのイベント(墓地見学など)が行われたこともある。メンバーは、同じような状況を分かち合うことで励ましあえる。

G Culture of War Invalids and War Veterans
 退役軍人による文化活動により音楽や伝統文化を次の世代へ伝えることを目的に、7年前に設立された。170名程のメンバーのうち、約半分は非障害者である。全員が集まるのは3ヶ月に一度。普段は、小さなグループごとに活動している。例えば、イベントを計画するグループは、週2回活動している。活動に参加することで、それぞれが抱えている悩みを分かち合え、精神的に落ちつく。

H Hanoi Green Dreams Club
 2003年10月、障害者や子どもを支援するための福祉組織として設立された。200人程のメンバーのうち障害者は約10%、年齢は20歳代である。月に一度の活動(小旅行など)により、情報共有、ネットワークづくり、就業支援などを行っている。活動に参加することで、障害者は劣等感が減り自信や社会性が向上する。また、非障害者も助け合いの大切さなどを学ぶ。学生や社会人が多く時間を合わせるのは難しいが、インターネットを通した情報提供など、今後も活動の継続を希望している。

I Hold the Future
http://www.holdthefuture.org
 若い障害者(16〜30歳)への職業トレーニングと就業機会の提供を目的に、1998年から現代表が個人的に活動していたが、2002年3月Hold the Futureとして設立された。少人数のスタッフと利用者の家族、卒業生や学生などがボランティアとして関わっており、借家のなかで、約80人の若い障害者(身体・知的・視覚・聴覚)が洋裁、手工芸、絵画などの仕事をしながら職業スキルを身につけている。全体の40%が枯葉剤の被害者で、なかには孤児もおり、同じ場所で生活している。経済面では、募金が少しあるが政府からの支援などはなく、できあがった製品を売ってやりくりしている。人材不足や利用者の健康問題など心配も多く、今後の安定した活動のため支援者を探している。

2. NCCD (National Coordinating Committee on Disability)
http://www.nccdvn.org.vn/
 2001年ハノイで開催された国際会議の影響を受け設立。政府関係諸機関の代表、障害関係NGO代表(2人)、障害当事者団体代表(3人)を含む28人のメンバーにより、毎月ミーティングが行われている。オフィスは、MOLISA (Ministry of Labors, Invalids, and Social Affairs) にある。主な活動内容は、障害に関する法律づくり、政府や企業への提言、BMF+5などの国際条約の推進とモニタリング、意識向上への働きかけ、障害者のスポーツや文化活動のサポートなど。なかでも最近は、10,000台のPCを障害者におくるプロジェクトや、企業や政府へ障害者雇用について働きかけるなど、障害者の雇用や職業訓練(とくにIT)に力を入れており、職業訓練をうけた障害者の80%が就職できることを目標としている。UNESCAPやAPCD、APDFとの関係も深い。NCCDは、省・郡・コミュニティの各レベルにおける障害当事者団体の設立を奨励している。

*ベトナムの障害者について(代表へのインタビューから)
 NCCDが設立されて7年。10年前と比べ、障害者をとりまく状況は飛躍的に改善している。多くの障害者が自身の権利を自覚し、差別や偏見も減っている。
 それでも、530万人いると言われているベトナムの障害者のうち、80%以上が都市と離れた地域に暮らし、90%以上が貧困に苦しんでいる状況は厳しい。障害の原因は、戦争、交通事故、疾病など様々。教育を受けていない→職業につけない→貧困に苦しむ、という悪循環が存在している。都市と離れた場所におけるアクセシビリティの問題は深刻であり、障害当事者団体の設立と同時に、インクルーシブ教育(全ての障害を持つ子どもへの教育)や職業トレーニングも推進されなくてはならない。
 今後、状況改善の鍵となるのは、政府の役割。国連障害者権利条約やBMF+5などの国際的情勢をうけ、障害に関する法律(the law on disability in Viet Nam)が2008〜2009年に成立する予定である。

3. 国内組織
@ IDEA (Inclusive Development Action)

IDEAの前身は、2000年に設立されたDisability Forum。ベトナムで活動するためには法的身分(juristic entity)が重要であるということを感じ、一年前にIDEAとして法的に認められたNGOになった。IDEAは、ベトナムにある様々なDPOや国際NGOを結ぶネットワークNGOで、主な活動はインターネットや郵送(インターネットにアクセスできないメンバーも多い)による情報提供。その他の活動としては、職業トレーニングなどを通した障害者のエンパワメント、プロジェクトデザインのコンサルテーション、会議に参加することによる政府への働きかけなどがある。活動における困難な点は、国際NGOとの協働に英語が必要であること、活動資金の確保などがあげられる。
 ハノイはベトナムの中でも特別な場所であること(障害者の多くは田舎に暮らしているのにあまりフォーカスされていない)、ベトナム国内におけるNGO設立の難しさ(正式に認められるまで1〜1.5年かかる)、赤十字などのいわゆるNGOとされている組織にも政府の影響が色濃いことなど、現実的な側面から状況を捉えている。

A Vietnam Sports Association for the Disabled (VSAD)
 ベトナムには37の障害者のスポーツ団体があるが、スポーツを通して障害者を支援することを目的に、1995年にVSADが設立された。スポーツ協会の中でもVSADの力は強い。メンバーの年齢は13〜60歳で、スポーツ活動を通して精神的にも身体的にも元気になれる。また、交流の場にもなっており、なかにはメンバー同士で結婚する人もいる。障害者スポーツ用の施設がないので、現在は一般施設を他団体と時間調節して利用している。マラソン、水泳、卓球、重量挙げ、バドミントン、射的、テニス、バレーボール、バスケットボール、サッカー、柔道などの種目があり、国内外の大会(パラリンピックなど)に参加している。組織には国内外からのスポーツ用具や資金の寄付があるが、成績優秀者には政府から経済援助(海外渡航費の補助など)があることもある。

4.国際組織
@ USAID
http://www.usaid.gov/locations/asia_near_east/countries/vietnam/vietnam.html
 USAIDベトナムによる人道支援(Humanitarian Assistance)プログラムのなかで、障害分野は最も重要視されている。1988年以来、USAIDは障害分野に約4,300万ドルもの経済支援をしてきた。過去にNCCDやDisability Forum(現IDEA)など、多くの組織設立を支援。現在はCatholic Relief Services(CRS)やVietnam Assistance to the Handicapped、Vietnam Veterans of America Foundationなどと協力し、障害者への職業トレーニングや意識向上、障害者のための法律づくりに取り組んでいる。ベトナムにおける活動の問題としては、障害に対する社会全体の低い意識、人材不足、セクター間の乏しい協調活動などがあり、包括的アプローチが必要とされている。

A CRS (Catholic Relief Services)
http://www.crs.org/vietnam/
 CRSは、世界中に94のオフィスを持つ国際NGOで、ベトナムでは1992年から活動している。農業・緊急支援・HIV/AIDS・教育の4事業を柱とし、教育事業のなかにインクルーシブ教育プロジェクトがある。教育省の各セクター(就学前・初等・中等・高等)との協働はすでに12年にもなり、インクルーシブ教育のための教師へのトレーニングや教材づくりを実施している。また、ニンビン省とクアンナム省のそれぞれ3区(障害児の多い地域)でのインクルーシブ教育パイロットプロジェクトや、USAIDと協力してハノイにおける障害者のためのITトレーニングプロジェクトを展開している。

B Handicap International (HI)
French section
http://www.handicap-international.fr/en/dans-le-monde/nos-pays-dintervention/programmes/vietnam-1/index.html?cHash=af96412cb9
Belgian section
http://en.handicapinternational.be/index.php?action=rubrique&numrub=269
 カンボジアにおけるMSF(国境なき医師団)の活動に参加していたベルギー人医師一人とフランス人医師二人により、1982年に設立された。現在、約50カ国の途上国において活動が展開されている。また、カナダ、アメリカ、ドイツ、ルクセンブルグなどの先進国にも、意識向上や活動資金を募ることを目的としたオフィスがある。
 現在のHIはベルギー部とフランス部に分かれており、それぞれ南部と北部で活動している。ハノイにあるフランス部では、五つの省においてインクルーシブ教育活動などを展開。NCCDと協力して意識向上のために映像作品をつくったりもしている。

(2009年2月27日更新)